初回は開店のごあいさつから、とのことなんだけれど、何を書いたものか。ぼくは朝日新聞も含め、書評委員とかをやっているのだけれど、やはりいまの日本の書評媒体というのはちょっとつらい。えらい先生たちが書くと、どうしてもえらそうなその業界で立派な本になってしまう。それは同時に、業界の中のお手盛り内輪誉めみたいな話にもなってしまう。あまり批判書評はするなと言われる。紹介できる本も限られ、字数も少ない。英米の新聞雑誌などに載る書評でうらやましいのは、丸々一面使って書評したりできるし、批判書評も載せられること。
そしてもう一つ、単独の書評で言える意外に、複数の本にまたがって話をしたいことが多い。この本はいいんだけど、別の見方としてあんな本にも目を通しておくべきで、さらにそれが他の分野とどうつながるのかは、あっちの本も見ておくといい、といった具合に。800字の新聞書評では、それは無理だ。昔は、電子書籍が普及することで、そういうつながる読書がしやすくなるんだ、なんていう話が流行ったけれど、今のところそういう状況にはなっていない。でも、せめて書評くらいはその機能を果たせるんじゃないか、というのがこの連載だ。
で、映画『ヘルタースケルター』のおかげで、岡崎京子関連の本がいくつか出てきたのはとても結構なこと。正直いって、岡崎京子が交通事故のために執筆中断してから、新しい世代のファン層というのがどこまで出てきているのかはわからない。彼女はぼくと同年齢で、ぼくの世代にとってはあらゆる意味で時代そのものを体現したようなマンガの書き手ではある。でもそれが他の世代にどうアピールするのか不明だ——というより、ぼくには客観的に評価しづらい、というのが正しいのかな。それはある意味で、彼女のマンガ自体がかなり時代依存的で、当時——80年代から90年代にかけて——の予備知識というか雰囲気の把握を要求する面が強い、ということでもある。
ばるぼら『岡崎京子の研究』(アスペクト)は、それをかなり強く意識した研究書。デビューから最新作まで作品の概要をささっと追いつつ、ページの大半は(疑似)対談形式で当時の時代背景の解説に費やされる。当時は何が流行で、そこで岡崎京子がどんな人に言及したり対談したりしていたか。それを読んで、本当に当時のことがわかるかどうかは——うーん。
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