「お腹が痛い」と訴える長女
tropchou19981027さんによる写真ACからの写真
7月に入ってすぐの水曜日のことだった。
子どもたちを迎えに行くと、保育園で次女の友達のちえちゃんとお迎えが一緒になった。
ちえちゃんはお母さんのことを「母ちゃん」と呼んでいるので、うちの子どもたちも母ちゃんと呼んでいる。
送り迎えが一緒になるとたまに車に乗せてもらうのだが、その日も家まで送ってもらった。
そうするとだいたい、子どもたちはその流れで一緒に遊びたがるので、うちでちえちゃんを1時間ほど預かることになる。
長女が宿題をして、次女とちえちゃんがUNOをして遊んでいると、チャイムが鳴った。
次女の友達のかりんちゃんと弟のひでくんを連れた、お母さんの斉藤さんだった。
斉藤さんと私は、来年で保育園を卒園する次女のクラスの役員をしていて、卒園記念品を選んで発注する係を担当している。
名前入りえんぴつとハンカチに決めたのだが、好きな柄を選んでもらえるようにパンフレットを作ることにして、その作業を斉藤さんにお願いしていたのだ。
子どもたちが家のなかで走り回っている横で、斉藤さんと一緒にパンフレットの改訂をしていると、長女が「お腹痛い」と言いに来た。
顔色が悪くぐったりしている。
2日間学校を休むが治まらず
「夏風邪が流行ってるから気をつけて」と斉藤さんが帰り、母ちゃんが迎えに来てちえちゃんも帰った。
長女の熱を測ると37度ちょっとあったので、病院に連れて行くことにした。
時間が遅く、かかりつけの小児科が終わっていたので普段は行かない小児科で診てもらう。
「胃が痛いみたいだから、整腸剤と抗生剤を出しときますね。これから嘔吐や下痢が出てくるかもしれないので、明日は学校休ませてください。明後日もしんどそうなら無理しないで。熱が下がって元気そうなら学校行ってもいいですよ」
とのことだったので、その夜はうどんを食べさせて早く寝かせた。
木曜日は、家で仕事をする私の横で本を読んだりテレビを観たり、ひたすらゴロゴロして過ごした。
金曜日には熱はなかったが、「まだお腹が痛い」とヘソの上あたりを指すので、休ませた。
土曜日になると元気そうにはなり、近所に住む長女の1歳下のゆきひろくんが遊びに来たので、家の近所で遊んで過ごした。
相変わらずお腹は痛いらしく、ご飯もいつもの半分くらいしか食べられていない。
いつもごちそうさまをした後に2人はパンパンに膨れた腹を触らせにくるのだが、長女の腹は確かに張りがなかった。
ママ友たちが心配してくれる
日曜日の朝になると、ちえちゃんの母ちゃんから、ちえちゃんを預かってほしいと連絡があった。
子どもたち3人が家のなかでおうちごっこなどをして遊んでいると、前日に続いてゆきひろくんも加わった。
しばらくしてちよちゃんとけいちゃん姉妹もやってきた。
まだ赤ちゃんのゆうじくんを抱っこした、お母さんのりっちゃんも後から来たので、お人形遊びをしたり絵を描いたり、思い思いのことをして遊ぶ子どもたちを見ながらお喋りをした。
ゆうじくんを抱っこさせてもらい、その軽さや、あやすと顔をくしゃっとさせて笑う様子を懐かしく感じていると、近所のなおひさくんとお母さんのようちゃんもやってきた。
ようちゃんは今年、保育園の役員をすることになったとかで、去年も今年も役員をやっている私はたびたび相談に乗っていた。
話に夢中になっていると、長女が横にきて私の肩を叩きだした。
「お腹痛い」という。
ついさっきまではしゃいでいたのに表情がなく顔色も悪い。
とりあえず横にならせると、りっちゃんとようちゃんが長女の様子を心配してくれる。
——水分は摂ったほうがいいから、ジュースとか飲ませてみたら?
——食欲なかったらゼリーとかプリンとか食べさせたらいいんちゃう?
あれこれと考えてくれて、ようちゃんがすぐにスーパーまで買い出しに行ってくれた。
ようちゃんからプリンやゼリーやヤクルトを受け取った後、お昼どきになったのでみんなは帰っていった。
ゆきひろくんだけ残ったので、そうめんを茹でてみんなで食べたが、長女はあまりお腹に入らず、ゼリーを食べさせる。
それでも顔色はよくなり、ちょっと遠くの公園に行きたいと言いだしたので、連れて行くことにした。
途中でお菓子を買ってから歩いて片道30分ほどかかる公園まで行き、子どもたち3人で夕方まで走り回って遊んだ。
学校にいると嫌なことを思いだす
長女の描いた絵。子どもの自分と大人の自分を描いたらしい。
ところが月曜日になると、またお腹が痛いという。
薬もなくなったので、かかりつけの小児科に連れて行った。
熱も症状もないため薬をだすなら整腸剤くらいしか、と前置きをしたうえで、
——もしかしたら、精神的なものかもしれないですね。
と先生は言った。
思ってもみなかった言葉に、私は戸惑った。
——学校は楽しい?
——友達はいる?
——勉強は楽しい?
——国語と算数どっちが好き?
——勉強はわかる? わからへん?
静かな声でゆっくりと質問をしていく先生に、長女は頷いたり首を横に振ったりして答えていたが、そのうちしくしく泣きだした。
「何か学校で嫌なことがあるんかもしれないですね」
と先生は私を見あげた。
家に帰ってご飯を食べてから、長女と一緒に畳のうえでゴロゴロした。
マンガや本を読んだりテレビを観たりしてから、頃合いを見計らって聞いてみた。
——学校で、何してるときが嫌なん?
——勉強してるとき。嫌なこと思いだしたり、想像したりしてしまうねん。それで悲しい気持ちになる。
——それは嫌やね。嫌なことって、どんなこと思いだすの?
——わかんない。1年生のときからずっとそうやった。
落ち着いた口調で話しているし、言葉には実感がこもっていた。
具体的に何かの出来事を思いだすのか、漠然と嫌な気持ちになるのか、それとも勉強や授業が嫌いということをそういう表現で伝えているのか。
はっきりとはわからないが、おそらく本人にもよくわからないのだろう、という気がした。
——そしたら明日は学校どうしようか?
——……。明日も休む。休んで心の準備して、水曜日から行く。
——いいよ。ゆっくり休んで心の準備しよな。
この会話をしてから、長女の顔は晴れやかになり、お腹が痛いということもなくなった。
小児科の先生の言うように、長女の腹痛は精神的なものかもしれない。
少なくとも私が聞いている範囲では、友達はたくさんいるし、勉強にもついていけている。
それでも、理由なく嫌な気持ちになって体調を崩してしまうことがある。
私もそうだった。
もと不登校児だった私
小学生の頃から、ことあるごとに腹痛を起こして学校を休んでいた。
特に遠足や運動会、修学旅行などが大嫌いで、前日には窓を開けたままお腹をだして寝て、風邪を引こうと頑張った。
体温計をシーツにこすりつけて摩擦熱で39度をだしたこともあるし、醤油を一気飲みすると体温が上がるらしいと聞いて試したこともある。
なぜそんなに嫌だったのかというと、集団行動が苦手だったから。
みんなと同じように学校に行って、同じように机に座り、同じように勉強をしたり遊んだりすることが苦痛でたまらなかった。
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