お客様のデートを成功させるために
僕がサービスマンとして働いている間、銀座や横浜をはじめ、いろいろな場所でいろいろなお客様を担当してきました。店に入る瞬間からその信頼感が二人の距離感に表れていて、長く連れ添っていることがわかるご夫婦。「今日が初デートかな?」と、なんだか彼のぎこちなさが愛らしい若いお二人。
それがもちろんどんなお二人だとしても、お店としては心地よい時間を過ごしてほしいし、二人の恋を深めてほしい。それがサービス側としての気持ちです。
今回は、そのうえで僕らはどんなことに気をつけているのかということから、お話していきたいと思います。
サービスマンの役割は、困っている彼のサポート
僕らがレストランでサービスするときに意識していることの一つに、「この人は今何を考えているのかな」を考える、というのがあります。
僕が働いていたのはそこそこ高単価のレストランばかりでした。ディナーであればおひとりさま1万円は超えるような価格帯です。店のしつらえは洗練されていて、きらきらとした内装のほかに、カトラリーやグラスも美しいフォルムのものばかりでした。
たとえばそこに若くて、あまりこういったレストランには行く機会がなかったのだろう、というカップルが来店されたとしましょう。ドアを開けても何をしたらいいのかわからず、自信なさげに「あの、予約した○○なんですど……(この店で合ってるよね……?)」と告げるような。
席に案内しても(上座がどっちだろう……)と悩んでしまうような素振りを見せたり、ついつい椅子に浅く腰掛けすぎて僕らがもう少し押したり。そんなことが続くと、(慌てている彼を見て、彼女さんが幻滅したりしないだろうか)と僕も心配になります。
だいたいの場合、最初のハードルになるのは食前酒です。
プロセッコ、フランチャコルタ。ベリーニにキールアンペリアル。
さながら呪文のようなメニューに、はてなが浮かんでしまう。(こういう店でこれが何かって聞くのは恥ずかしいことなんじゃないか。でも分かるのはビールくらいしかないし。いや、でもいいのかな、ビール頼んでも……)って彼が思っていることもあると思います。
だいたいそういうときって、彼のほうからSOSを発信しているものです。僕の場合は、お二人の会話を聞いてそれを感じることが多かったように思います。「プロセッコ?とフランチャコルタ?って何が違うんだろう……」そんなことを彼が彼女さんにつぶやいている。
そんなSOSを感じたら僕は自分から提案をしに行きます。でも「プロセッコとフランチャコルタはブドウ品種からまず違いまして……」みたいな話をするわけではありません。ソムリエ志望のおふたりならまだしも、多くの人はそんな話をされたらさらに頭に「?」マークが浮かぶことでしょう。
だからたとえば、僕はこんなふうに提案をします。とびっきりの笑顔を添えて。
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