下北沢の呼吸と一体化したパン屋です【第3回】

サブカル、古着、演劇の街、下北沢。街も人もあっという間に移り変わる変化の多い街でもあります。そんな街の一角に、住む人の暮らしに寄りそい、どこか安心できる“街のパン屋さん”がありました。4回シリーズの第3回です。

「大英堂」のあんぱんがすべてのはじまり

下北沢、そして一番街商店街の暮らしとともにある「ミクスチャー」ですが、かつてこの場所には、約半世紀の歴史を持つ「大英堂」というパン屋さんがありました。いつか自分のカフェを持ちたいと思っていた中井さんは、会社員時代、この「大英堂」に毎週パンを作りに通っていたのです。

昔からパンを食べるのが好きだったという中井さん。たまたま大英堂の近くに住んでいた友人の家を訪れたある日、大英堂にパンを買いに行き、そのご主人で故・関忠雄さんの人柄に惚れこんでしまったのだそう。いつも笑顔でパンを作っていた関さんとの出会いが、中井さんをパン作りに導いたといいます。

中井さんは、自分のカフェでパンを出したいと思っていたこともあり、なかば勝手に弟子入り!  関さんが食べさせてくれたできたてのあんぱんにさらなる衝撃を受け、平日は会社に通いながら、休日は大英堂でパン作りのお手伝いをするという生活が始まったのです。

店内を一望できるオープンキッチンが特徴。ちなみに、お客さん一人一人の顔が見えるレジ奥の仕込み台は中井さんお気に入りの場所なのだとか

「大英堂時代をご存じのお客さんの中には、今でも、僕のことを『大英堂の息子』と勘違いしている方がいらっしゃいます(笑)。でも、おじさん(関さん)は、僕のことを本当の息子のように可愛がってくれました。雇われているわけではなく、僕が好きで来ているというのもあったのかもしれませんが、いつもニコニコ笑っていて、仕事終わりにご飯をごちそうしてくれたり、僕が金曜日に新宿で飲んでいて自宅までの終電がなくなると、お店に泊めてくれたりして(笑)」

その出会いから会社を辞めるまでの4年間、中井さんはそこで、パン作りの楽しさを学んだといいます。

「僕が週末に通い始めて3年が経った頃、おじさんと一緒にお酒を飲みにいったとき、『実は、どうせ遊びだろうから、すぐにやめると思っていたんだよ』って言われたことがあるんです。でも、僕はパン作りが楽しくて楽しくて、全く苦に感じたことはなかった。本当に欠かさず毎週通ってました」

ボウルやスケッパー、食パンの型、ばんじゅう(パン箱)など、大英堂時代のパン作りの道具は現役で活躍中です。ただし、熱い鉄板を掴むミトンは消耗品。安くて丈夫なのでイケアで大量購入するのだそう

この修業を経て、中井さんは会社を退職。調理師免許をとるための学校に通い、自分のお店を持つ準備を始めた矢先、関さんが急逝し、大英堂は閉店してしまいます。ちょうどその頃、一番街商店街では恒例の阿波踊りが開催されようとしていました。

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小さいけれどスゴい店が大好き!

ケトル

とにかく、小さいけれどスゴいんです! 気取らず、カッコつけず、自分の好きなモノを、自分の目の届くところで丁寧に売る。敷居は低く、専門性は抜群に高い、今すぐは行けなくてもいつか訪れる日を楽しみに待ちたい。ケトルの「小さな店特集」です。

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