性欲がない私には、世界に居場所がない#25

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する橘みつさん。お客さんである高橋さんとホテルに入ると、彼女は躊躇しはじめました。そこで打ち明けられたのは「性的なことに拒否感がある」という告白でした。

わたしは落ちていた言葉を拾って並べなおす。「性的なことに、拒否感があるんですね」高橋さんはただ黙っている。「わたし、似たような方に心あたりがあります。わたしのところに来てくれるお客さんの中には、性欲がないって自覚があるんだけど、本当に性欲がないのか、確かめたくて来てくれる人がいます」

「そういう人が、いるんだ……」

一人のお客さんに向き合うとき、これまで出会ってきたお客さんたちが発していた、たくさんの無言の訴えを思い出す。性は、正解も平均値もなくて一人一人あり方は多様だ。それでも、彼女たちが教えてくれたことは、こういうときに助けになってくれる。推測の範囲を出ないが、毎月1、2名程度は高橋さんと似たような特徴を持つお客さんが来る。アセクシュアルまたはノンセクシュアルと呼ばれる人たちだ。性的な行為に嫌悪感や拒否感を持つ彼らが風俗に来てくれる場合、その目的は大抵ひとつ。風俗嬢を相手にして、自分に性欲が本当にないのかどうかを確かめるのだ。

重たすぎる荷物を下ろすように、高橋さんは顔を覆ったその指の隙間から深い吐息を漏らす。「人に、そういう欲求をあんまり持てない。それは昔から感じてたけど、大人になれば、好きな相手が見つかれば、自分も欲求を持てるしできると思ってた。けど……」

「うまくいかないことがあったりした?」

高橋さんの顔を覆う手の爪は、力を入れすぎて真っ白になっている。「……一度だけ、男性としたことあります」誰にも開けたことのない箱が音もなく静かに開く。そこにあったのは、絶望だった。

「大学のサークルの先輩と。彼のことは尊敬していたし、好きなんだと思ってました。卒業してからも飲みに行くことがあって、そこで付き合って欲しいって言われて。それで普通にそういうことになったんだけど……」

「うん」

「直前まで、そういうときになれば普通にできるのかと思ってた。彼のことも好きなはずだけど、でもとても気持ちが悪くて。入れることもそうだけど、触られるのもそういう目で見られるのも、耐えられない。吐き気がする。してる最中は触られているのが自分じゃないみたいだった。遠くの方から自分を見てるみたい。なんとか耐えてたけど、相手も私が硬直して全然良くないのがわかるみたい」高橋さんの瞳は孤独と憎悪のために硬くキラキラ輝いている。

「別れるときに言われたんです。『なんでこんなに頑張ってるのに応えてくれないのか、全然わからない。君はどうせ、俺のこと好きじゃないんだろ』って」

高橋さんの荒い息遣いだけが部屋に響く。

「何か過去にトラウマとかそういうのがあるんじゃないか、それとも男性に嫌悪感があるんじゃないかとかも考えた。そういうわけじゃない、でもなんかだめ、何をやっても性欲を感じないし、したくない」高橋さんは頭を抱えた。頑張って取り組んだんですね、と声をかけると彼女は下に向けていた顔をそろそろとあげる。とろりと溶けたような目が、すだれのように垂れ下がった髪の間から覗く。

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レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話

橘みつ

世界初の対話型レズ風俗「Relieve」のオーナー兼キャストとして活躍する著者は、なぜ、レズ風俗で働くのでしょうか? お客さんの「人生のきっかけ」を共に探したいと願い、これまで200人以上に向き合ってきた彼女が、どんな人生をおくり、い...もっと読む

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コメント

soleil_monde これは自分の話でもある……という気持ちになった 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

ojojoj19 Gmailのほうに来てたんやけど、ねぇ…これ…… 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

25038_59_9 先日の交流会の質問でも思ったけどロマでノンセクって本人も相手も大変そうよね…… って思った。 https://t.co/3sJ66Iy1Bw 約2ヶ月前 replyretweetfavorite