社会に居場所がないから、浮気しちゃうんだよ。

第8試合<ママ>B美の場合 「恋してキュンキュンしてる間は、幸福な気もしちゃうから」。自信と余裕と理性をなくして浮気に走った彼女が、次にとった行動とは。話題のエッセイ、鈴木涼美『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』から特別連載。cakesで掲載中の、橘玲さんとの対談「専業主婦と働くオンナ、どっちがしあわせ?」にも注目!

モテを満喫した10代20代

 スタイルがよく美人である、というのが彼女の最もわかりやすい価値だった。もちろん、 私を含めたごく少数の仲の良い友人たちはもっと他の魅力、詩的な表現が巧みであるとか、 料理が上手だとか、音楽の趣味がいいとか、そういうことを知っていたが、それでも私たちは人に彼女を説明する時に、モデルみたいな美人でね、と切り出す。そして彼女も、ただの美人ではないという自意識を持ちながら、美人だということが自身にとって大変重要だということは否定せずに自覚していた

 そして別に女を売るとか男性に媚びるとかいう次元ではなく、その価値を存分に発揮し10代を過ごし、20代を過ごし、27 歳で婚活結婚するまで必死に働くことも必死にダイエットすることもなく平穏な日々を送っていた。
 私は今でも、高校1年生の5月の彼女が載った高校生向けファッション誌を持っている。高校に入って夏休みあたりですっかり垢抜ける女子が多い中、入学式での彼女のずば抜けた都会っぽさと大人っぽさは、当然クラスのほとんどの男子に意識されるという結果に帰結し、彼女もまたその結果をしっかり享受していた。入学してすぐに隣のクラスの学年で一番金持ちでイケメンの彼氏と付き合って別れて他校の3年生や渋谷のフリーターなどとも付き合っていた。

  大学選びもソツがなく、嫌味すぎないけどバカにされることはないミッション系の有名大学の法学部に入学し、当然司法試験の勉強などにも手を染めず、ジャガーに乗った彼氏と熊本の高級温泉に3泊で行ったり、読者モデルとして自慢のエルメスコレクションを全国的に公表したりしていた。大学を卒業する時に就職しなかった彼女を、悲観的に見る人も少なかった。港区の実家から何処へでも出かけられたし、探せばそれなりの働き口があるであろうことは誰にでも想像できたし、何よりわざわざ仕事人としてのキャリアを上書きしなくても、 美しい彼女は十分に社会に受け入れられていた。

「私がモテるのって、黄金率的な美人じゃないからだと思う」という彼女の言葉はおそらく本心だし、言われてみれば黄金率的な顔ではないような気がしたが、彼女がモテるのは別の理由によるものだと私は思っていた。
 彼女は自分が好きな服と男が好きな服の区別がよくわかっていた。自分の好きなメイクと一般的な好みの差を誰より心得ていた。心地の良い立ち振る舞いと美しい立ち振る舞いが必ずしも一致しないのを知り、また男が頼られるのを好きなことも、しかし同時に情けない側面も愛してほしいと思っていることもよく理解した。

 今でも彼女と食事をすると、隣のおじさんたちが勝手に伝票を持って行ってくれたり、いつのまにか知らない男と次の店に流れていたりと、若い女の子に起こりがちな事態がたびたび起こる。女の私たちがスタイルが良い美人と感じる以上の、他で代替できない男にとってのたまらなさが、彼女に備わっていることは間違いなかった。
 そして結婚する年齢を間違うことなく、遅すぎず早すぎない時に設定したのも彼女の巧みさがなせる技である。出会って2ヶ月ほどの人とスピード結婚し、銀座のレストランで質素な結婚パーティーを開いた。潔い彼女は「私の場合は、婚活が就活、旦那が上司」と昨年流行ったドラマのようなことを言って、ハート柄のエプロンや朝ご飯のスクランブルエッグを恥ずかしげもなく用意していた。

 妊娠してお腹がだいぶ目立つようになっても、彼女の生活は少なくとも友人たちと接する範囲ではあまり変化したように思えなかった。彼女としては若干不本意な中流マンションに住んではいたが、バッグはフェンディだったし、友人の温泉や韓国旅行への誘いも断ることはなかった。子供が生まれたという報告の後、しばらくあまり出歩いてはいないようだったが、子供が生まれたら大体そんなものだと思っていた私は、別に気にすることもなく、時々ちょっとした連絡を取り合っていた。

自分が何者でもないことを認めるのはつらい

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A子とB美、どっちが幸せ?

鈴木涼美

自分が選んだ道なのに、いつも他人がしあわせに見えるのはなぜ? 恋愛、結婚、キャリア、子作り、不倫……。同じ土俵にA子とB美を並べてみれば、それぞれの思惑と事情と価値観が、浮き彫りになって見えてくる。女たちのリアルな本音対決、あなたはど...もっと読む

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コメント

yoshinon どこからツッコんで良いのか分からないぐらいに悲しいね。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

GaNZnO 矢部「人生の景色を変えてみ方がいい」 男も女も俺もお前も 5ヶ月前 replyretweetfavorite

Suzumixxx 今回のB美は、元モテモテ派手女の恋多き人妻ちゃん。33過ぎてから、独身の友達より人妻の友達のが恋が充実してるし、ピュアな恋楽しんでる気がする。 https://t.co/kRokB4xwdu 5ヶ月前 replyretweetfavorite