おわりに
敏感な子どもをテーマに本を執筆することは、私がずっとやりたかったことでした。
この本の中でもいろいろ参考にし、紹介させていただきましたが、アーロン博士の『ひといちばい敏感な子』によって、ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)のみならず、ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)という概念が提示されたことが、私を後押ししてくれました。
しかし、子どもの敏感さを一般の方に理解していただけるように説明するというのは、思っていた以上に大変な作業でした。
ちょうど、勤めていた病院を退職し、クリニックを開設(2016年9月開院)するというてんてこまいの時期に執筆作業を始めたため、思うように時間が捻出できずに苦戦しました。何度診療室のソファで朝を迎えたことでしょう。
子どもの敏感さを語るうえで、どうしても外せないのが神経発達症、いわゆる「発達障害」の人たちのことです。東田直樹さんや栗原類さんのように、当事者が自分の言葉で自分の抱えている症状や内面の世界を語ってくれるようになったことで、神経発達症に対する理解はずいぶん進んできました。
けれども、神経発達症の人たちは、どんなに秀でた能力があっても、他者理解や自己表現やマルチタスクが健常の人のようにはいきません。東田さんも、いまに至るまでにはさまざまな誤解・中傷を受けました。社会には、「主観的には敏感かもしれないけれど、客観的にはかなり鈍感だよね」という印象があるわけです。
HSP、HSCは、そういった神経発達症の人たちと不即不離の関係にあります。さらには、愛着障害、不安障害、気分障害、解離性障害、あるいは統合失調症などの症状をあわせもっていることが、大多数の人にはなかなか理解してもらえない。さまざまな困難さや生きづらさや複雑さを把握する概念が、これまではなかったのです。
こうした混然一体としたところを、どうしたらうまくかみ砕けるだろうかと迷い、悩みながらの作業になりました。
最近はようやくHSPの本が少しずつ出てきていますが、HSCの本はまだほとんど出ていません。HSCに対する理解はまだまだです。
2016年、児童精神医学会で発表しましたが、これに関連した発表はありませんでした。医学的診断名ではないので扱いにくいのだと思います。医者や心理士が扱おうという気にならないと、世の中に浸透させるのは難しいわけです。
けれども私は、敏感さを抱えた多くの子どもたち、そしてその家族の葛藤をずっと見てきた者として、HSCについてもっと知ってもらい、考えてもらいたいという一心で、この本をまとめました。
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