夏にうっかりある女子のことを好きになってしまった。そういうのはすごく疲れるし、大体後でうわあああああああああああああああああああああああああああって頭を抱えたくなるような黒歴史な行動を残してしまうからできるだけやめておこうと思っていたのに……。最初は普通に「かわいい子だなー」と思ってたくらいだったんだけど、たまたま何回か顔を合わせる機会が続いて、うだるような暑さの中で汗を流しながら一緒にビールを飲んだりしていたら、いつの間にか脳の変なスイッチが入ってしまっていた。夏だ。全部夏が悪い。
恋愛スイッチが入ると本当に世界に魔法がかかったみたいに見えるのは不思議だ。多分脳内で変な物質がたくさん分泌されているんだろう。相手の姿がそれまでの何倍にも魅力的に見えてなんかキラキラ光ってるし、相手の声を聞いているだけで耳が幸せになるし、物を手渡すときに指と指がちょっと触れ合っただけで電流が走ったように全身が気持ち良くなってしまう。
そうした現象はただの思い込みや勘違いなのだろう。また、永続的なものではなく例え相手と両想いになったとしても関係を続けていくと次第に薄れていくものなんだろう。だけどそれは平坦な人生に起伏を作ってくれる。もちろんただの思い込みかもしれないが。最近毎日がだるかったのは恋愛成分が不足していたのかもしれない。
先に結末を書くと、一瞬「ちょっといい感じか?」と思ったりしたものの、結局は振られてしまった。まあ他人と長期的に付き合っていく覚悟もあまりなかったのでそれでよかった気がする。手を握る以上のことは特に何も起こらなかった。でも、夜の公園で偶然を装って手と手を触れ合わせた瞬間のびくっとした感じや、そこからおそるおそる相手の手を握ってみたら向こうも軽く握り返してきてくれたときの、全身を宇宙まで吹っ飛ばされるような高揚感。その記憶だけで3週間くらいは生きていけそうだと思う。いい年になってくると異性と仲良くなるとわりとすぐに寝ちゃったりして、手を握るだけでそこまで盛り上がるようなことはあまりないので、なんか久しぶりで新鮮な体験だった。人を好きになるとかめんどくさいと最近は思っていたけど、やはり人生に恋愛は必要なのかもしれない。黒歴史については多少痛い言動をしたり痛いメールを送ったりしたくらいで済んだ(多分……)。
恋をするといつも、浮かれるのと同時に「怖い怖い怖い怖い怖いやめてやめてやめてやめてやめて」って不安でどうしようもない気分にもなる。相手のことが気になってたまらないのに、相手に近づくと苦しいので遠ざけてしまったりする。