バーテンダーに学ぶ、わがままを愛情に変える会話術

かつて一流レストランでサービスマンとして働いていた、noteでも人気のクリエイター・黒ワインさん。cakesの連載では、サービスの仕事で培った「目の前のお客様を幸せにする」ためのスキルを、恋愛のコミュニケーションに活かす方法をお教えします。初回は、恋人と気持ちのすれ違いをおこさない言葉の選びかたです。

サービスは技術である。同時に、愛でもあるのかもしれない

「もう自宅待機が続いて1ヵ月になるね」
「そうだね、テレワークは慣れた?」
「うん、だいぶ。仕事は大丈夫。でも……」
「でも?」
「でも、やっぱり会いたいな」
「会いたいって、会えるわけないでしょ。電車に乗るだけでも危ないのに」
「うん……そうだよね」
「仕方ないよ。落ち着いたら会おうね。じゃあまたね」

はじめまして。黒ワインと申します。僕は正味7年ほどレストランサービスの仕事をしていました。詳しく役職名を付けるのなら5年くらいのホールスタッフと、2年間のソムリエです。なお、今はサービス業ではありますが別の仕事についています。

さて、いきなりですが、サービス(接客)に必要なものはなんでしょうか。

「サービスは愛だ」「接客は愛だ」とよく言われます。試しに今Google検索で「接客は愛」と入力してみたところ、2千万件以上のページがヒットしました。「書籍」というキーワードを追加しても、多くの本で「接客イコール愛」と語っているのがわかります。

でも、正直なところ、僕は「サービスは愛」だと思ってはいないんですね。なぜならいいサービスの多くは単なる経験の積み重ねで成り立っているからです。

お客様の年齢に合わせて声のトーンを上下させて聞き取りやすくする。
若くて緊張しているお客様には、あえてカジュアルな発声を心がけて気持ちをほぐしてあげる。
小さなお子様に話しかけるのであれば、しゃがんで目線を合わせることで親近感を持ってもらう。

これらはすべて一流のサービスマンなら自然とできることです。しかし同時にこれらのことは、今聞いたあなたでもできることです。同じ行動をするかしないかだけであって、そこに愛が存在するかどうかは関係ありません。

サービスと愛は関係ない。だからこそ後輩に継承できるものだと考えています。それでも、サービスというものを深く考えていくうちに、また、誰かに教えていくうちに、僕は自然とあることに気づいたんですよね。

いいサービスをしようとしたときには、僕はお客様のことを一生懸命考えている。

たとえば食後のコーヒータイムにカバンからお薬を取り出したお客様がいる。それを見たときに、(僕のおばあちゃんは、いつも僕が風邪の時にはぬるま湯を用意して薬を飲ませてくれたな)なんて思い出しながら、「ぬるま湯をご用意いたしましょうか」と聞いている。そうやってお客様のことを身近に考えている自分がいる。

サービスの一つ一つの行動は、あくまで技術でしかありません。その考えは今でも変わりません。

でも、もしサービスが愛だと言うのなら、それは誰かのことを想い続けることに違いないのでしょう。そしてそれはきっと、誰かを幸せにすることにつながるのだろうと思っています。

恋愛の悩みにサービスを応用してみる

さて、今回の連載では、そのサービス経験を恋愛に重ね合わせた場合にどうなるのか、というお話をしていきます。

恋愛って難しいですよね。たとえば「人間関係」というのは悩みごとのベスト3に必ず上がる話題の一つですが、恋愛って、その人間関係をもっと濃密にしたものだと思うんです。だからもっと難しい。

愛が燃え上がっているうちは気にならなかったことが時間と共に表に出てきて、「どうして分かってくれないんだろう」「わたしのこと好きじゃないのかな」みたいに考えてしまうこと、あると思うんです。

冒頭のやりとり、このコロナ禍の自粛期間の中でありそうなカップルの会話ですよね。

あえて性別や名前を入れない会話にしましたが、あなたはどちらの立場になって読みましたか? 「やっぱり会いたいな」派が多いと思いつつも、「落ち着いたらまた会おうね」派もそれなりにいるんじゃないかと思います。

たぶん、この二人は愛し合ってないわけじゃないんですよ。でもなんだかお互いの気持ちがすれ違っている。しかもすれ違いが解決されないまま、会話は終わる。ちょっと幸せそうじゃないですよね。

こんなとき、どうしたらいいんでしょうか。そのヒントとして、ちょっとサービスの一場面を話をさせてください。

お客様を気持ちよくさせるバーテンダーの言葉

あるバーに若い男の子の店員がいました。「男の子」とは書きましたが、その子は一人前に仕事ができて、どんどんカクテルの腕も上げて、美味しいお酒を提供してくれていました。

そのうち僕が職場を変えることになって、その店に行く機会はめっきり減ってしまいました。長らく店に行かないうちに、その子は別の店舗に異動していました。

たぶん最後に会ってからもう2年くらい経ってたんじゃないかと思います。たまたま別の店舗に行ったとき、その彼がいました。

彼は僕を笑顔で迎え入れてくれました。「お久しぶりです」もあえて言わずに、「どうしましょうか」とだけ言いながら。

僕はその店オリジナルのカクテルを頼んで、丁寧に作られたそのお酒を飲みました。そのとき、彼がこう言ったんですよ。

「黒ワインさんにこうしてまた僕のお酒を飲んでもらえて、すごく嬉しいです」

この「嬉しい」がきっかけにそう言われた僕も嬉しくなって、ついつい予定よりも多くお酒を頼んでしまう夜になりました。

あなたの感情を他の人は否定できない

レストランに関わる人の中で、サービスマンって料理人や食材の農家さんと大きく違うものがあるんですよ。

それは自分では何一つ作れないという点です。一昔前はサービスマンでもクレープやフルーツをお客様の前で調理してお出しすることがありましたが、最近では自分で何かを作ることは珍しくなりました。

だからこそ、サービスマンは言葉を大切にします。一つ一つの言葉に意味を込めて話します。

その中で、言葉に説得力を持たせる一つの簡単な方法があります。それは「感情を表現すること」です。

「お客様にまた会えて嬉しい」。バーテンダーが発したこの言葉って何が強いかというと、他の人間には否定ができないってことなんですよね。

「嬉しい」かどうかってその言った本人にしか分からないじゃないですか。「嬉しいわけないでしょ」って他人が言いづらいんです。否定されない、だから相手にそのまま伝わりやすい。

しかもこういう感情表現って、共感ができるんですよね。「私はあなたのことが好き」と言って、相手も同じ気持ちだったときの高揚感ってものすごいものがあるじゃないですか。人ってそうやって気持ちを共有できると、すごく安心するし嬉しくなる。

そういうことを頭に置いて、最初のやりとりをちょっと変えてみましょう。こっちのほうがいくぶん幸せなカップルになるのではないでしょうか。

「もう自宅待機が続いて1ヵ月になるね」
「そうだね、テレワークは慣れた?」
「うん、だいぶ。仕事は大丈夫。でも……」
「でも?」
「でも、やっぱり会えないのはすごくさびしい
そうだね、会えないのはさびしいね
「うん……そうだよね」
会いたい気持ちが同じでよかった。今は仕方ないけれど、落ち着いたら会おうね。じゃあまたね」

「会いたい」だとわがままに聞こえても、「会えなくてさびしい」は否定がしづらい。相手も素直に受け止めやすいんじゃないかなと思います。

それでも「さびしいのくらい我慢しろよ」みたいなことを言うのなら、そんな共感をしてもらえない関係はもうやめてしまっていいのではないでしょうか。

「嬉しい」とか「さびしい」とかそういう単純な感情表現をすること、そしてそれに対して「自分も同じ」と共感していることを表現すること。言葉一つで続けられる良い関係というのはあると思います。 最近恋人にあまり感情を素直に表現してないな、と思ったらぜひ伝えてみてはいかがでしょうか。それが良い感情であるならばそんなに素晴らしいことはないですね。ぜひ相手の気持ちにも共感してあげてください。

素敵な恋愛ができますように。ではまた。


黒ワインさんのサービスの話をもっと読みたい人はnoteも!

この連載について

サービスが愛だと言うのなら

黒ワイン

かつて一流レストランでサービスマンとして働いていた、noteでも人気のクリエイター・黒ワインさん。cakesの連載では、サービスの仕事で培った「目の前のお客様を幸せにする」ためのスキルを、恋愛のコミュニケーションに活かす方法をお教えします。

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コメント

foolandsale https://t.co/63cVSCHvqn 5ヶ月前 replyretweetfavorite

Hor_ws 『僕は「サービスは愛」だと思ってはいないんですね。なぜならいいサービスの多くは単なる経験の積み重ねで成り立っているからです。(中略)でも、もしサービスが愛だと言うのなら、それは誰かのことを想い続けることに違いないのでしょう』 https://t.co/AJV8N4VOcr 5ヶ月前 replyretweetfavorite

gibbous_leo ▶️ 素直とは、そういうことなんですね。 寂しいと伝えるこ… https://t.co/rh9urwsCgs 5ヶ月前 replyretweetfavorite

saollryn525 シンプルだけど、あーこれだーって思えた。。今同居してないカップルさんたちはこんな感じなのだろうか。我慢じゃなくて、ちゃんと気持ちは伝えた上でありがとう😉だね @vino_cavolfiore | 5ヶ月前 replyretweetfavorite