バイブスはどこに消えた?
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 桃山商事の恋バナ連載、今月は「隣にいるのに遠くに感じる」というテーマでお送りしています。
ワッコ 前回は、わたしが彼氏の裏アカを見つけて距離を感じたという話を紹介させていただきました。パートナーのことを遠くに感じる瞬間って、まだまだいろんなパターンがありそうですよね。
森田 今日は最初に、俺が男友達から聞いたエピソードを紹介したいなと。彼は彼女と同棲してるんだけど、ある休日の午前中に「無性に蕎麦が食べたい!」という話で盛り上がったんだって。
清田 蕎麦バイブスが合致した。
森田 お昼になり、近所の蕎麦屋に二人でいそいそと入った。店員さんが注文を取りに来て、彼はもちろん蕎麦を頼んだんだけど……彼女は悩むことなく生姜焼き定食を頼んだ。
ワッコ 蕎麦でなく!?
森田 生姜焼き定食(笑)。彼はその時に距離を感じたとのことでした。
ワッコ 「メニューを見たら生姜焼きが食べたくなっちゃった」みたいな説明もなかったんですか?
森田 なかったみたい。
ワッコ そういう会話があれば別ですけど、すっと「生姜焼きで」って言われたら遠くに感じるでしょうね。あのバイブスは一体何だったの!?みたいな。
清田 あったはずの時間をなかったことにされた感じがして、寂しい気持ちになりそう……。
森田 彼は「平然と生姜焼き定食を頼む彼女がちょっと怖かった」とも言っていた。
清田 これは、自分が予想していた行動と相手の行動が違ったという話でもあるよね。
森田 常連投稿者の漁師の娘さんが、まさにそういう「遠さ」の話をしていた。娘さんが、彼氏と大きい本屋に行った時にはぐれてしまったことがあったんだって。娘さんは「彼はこの辺の棚にいるだろうな」と予想して、小説棚とか漫画棚をいろいろ探したんだけど、その予想がことごとく外れて全然見つからなかったらしく……その時に、彼のことを遠くに感じたと話していました。
清田 彼を探してウロウロしている娘さんの姿が目に浮かぶ(笑)。そのシチュエーションだと、「もしもここにいたらどうしよう」みたいな不安もありそうじゃない? 例えば自己啓発本の棚とか……。
ワッコ 元彼がそういう本をやたらと買ってきて、すごい距離を感じたことがあります。
森田 まじか! 自己啓発本を読む人だったの?
ワッコ もともとは違ったと思うんですけど、何かに触発されたらしく、一時期立て続けにそれっぽいビジネス書を買ってきてました。
森田 これは自己啓発本が悪いとかそういうことではなく、自分との距離の話だよね。読書好きとしては、相手がどういう本を読んでるかは気になっちゃうところなのかなと。俺も人の家に行くと、ついつい本棚を見ちゃうし……。
ワッコ 恋人の本棚に自己啓発本が並んでたら、遠いなって思います。
森田 逆にそれで「近い」と感じる人もいるとは思うんだけど……。ワッコは昔、「カルチャーに全く興味がない男性」と付き合ってたことがあったと言ってたじゃない? あれも距離の話だよね。
ワッコ わたしが付き合うのはほとんどがそういう人なんですけど、特に顕著だったその彼は「人生で一度も映画を観たことがない」と豪語していました。
森田 そこまでいくとむしろ珍しい気がする(笑)。
ワッコ その人との間で、絶望的な距離を感じた桐島事件というヤバい出来事がありまして。