地方出身者を見下すも、親から解放されない都会娘の悲劇。

第6試合<出身地>A子の場合 麻布十番にある実家の居心地は、大学生のときには最高だった。地方出身の子を完全に見下していた。でも、父が亡くなって実家に戻ってみると……。「間違いなく、婚期逃すね、わたし」。話題のエッセイ、鈴木涼美『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』から特別連載。cakesで掲載中の、橘玲さんとの対談「専業主婦と働くオンナ、どっちがしあわせ?」にも注目!

職場まで2駅。麻布十番にある実家

「大学時代に、方出身の同級生とか若干舐めてて、田舎者ってほどじゃないけど、違う環境で育ったんだろうなと思ってたけどね。八戸から出てきてる女の子がいて、その子からすると、それまで丸ビルもヒルズもカシータも久兵衛も全部観光地じゃん。わかり合えないわけよ

麻布十番商店街から徒歩圏内の実家で育った彼女は、四谷にある大学に進学後も、外資系ホテルに就職後も、両親や姉と同居を続け、一度だけ結婚を考えた彼の家で同棲の真似事をしたものの、2年たたずにして破局、また実家に戻り、28歳の時に初めて自分自身で契約して賃貸マンションに移り住んだのだが、最近になって姉が結婚し、父が他界して母だけになった麻布の家に戻ったのだと言っていた。

ホテルの広報の仕事は順調で、特別なイベントがなければ土日は休める。昇格して給料も上がり、生まれてこのかたほとんど家賃や引っ越し代を負担したことがない彼女の貯金は4桁に届く勢いで、長期の休みは気軽に国外に出て、 条件の良い独身生活を楽しんでいる。

 彼女の自宅は古い集合住宅だが、すぐ隣のマンションは1LDKの間取りでも家賃17万円。そう考えればほぼ同じ条件を無料で享受できる彼女の境遇は恵まれている。たとえ年収が上司より100万円低くても、彼女の生活レベルは彼らの上をいくのだ。私立の女子校に通った高校生時代には、千葉や埼玉から通う生徒たちに羨ましがられたし、自分でもそれなりにその境遇は気に入っていた。

 10代の時に麻布周辺の公共交通網が整い、地下鉄の駅が近くなったことでさらに利便性は増した。彼女のその環境に感謝したピークは大学生の頃だった。学校から遠い近いの差こそあれ、全員が首都圏の親元から通う高校とは代わり、大学生は親から自立して暮らす者と、実家から通う者に大きく分かれる。生まれた家がよほど経済的に豊かでない限り、自立している学生は慎ましく暮らすか、あるいはお水や風俗などのバイトをして派手に暮らすかのどちらかを選ばざるを得ない。

麻布の実家に暮らして、ヘアカタログを作る出版社でバイトをしていた彼女は、親からも十分に交通費や教材費などを与えられていたため、かなり余裕のある生活だった。もちろん、 彼女のように実家が十分に通学圏内にあってもあえて一人暮らしをしている者もいて、彼ら彼女らもまた「いざとなったら実家に帰れる」安心感と、そもそもあえて独立する余裕が見える気楽さがあった。
 彼女の仲が良かった「一人暮らしの友人」というのはだいたいその類で、稀に授業やサークルで地方出身の学生と話す機会を得ても、結局それほど親しい仲にはならなかった。

「仲良くなる子って高校時代から知ってる子だったり、高校時代に共通の友達がいた子だったりするから、たまたま地方から出てきてる友達がそんなにいないだけだと思ってたけど、就活しててよくわかった。田舎の子ってガツガツしてるよね。例えば自分が希望してる職種に友達が先に内定したら、急にその職種の悪口言ったり、その子の悪口言ったり。そのわりに、自分よりいいとこに就職する友達のツテ使って合コン組んでこようとしたり。意地汚い」

 彼女と似た企業ばかり受けていた女の子は、青森県の実家から友達もいないままに上京し、親からの平均的な仕送りとコーヒーショップのバイト代で堅実に暮らしている子だった。彼女が銀座久兵衛を観光地と皮肉った八戸出身の女子でもある。彼女自身もそれなりに熱心に外資系のホテルや航空会社の就職を希望していたが、八戸ガールはそれを上回る熱意で、情報収集や同級生の状況把握に余念がなかった。毎日のように「どうだった?」「よかったら面接の内容教えてほしい」「他はどこ受けた?」と聞かれることに、彼女はややへきえきとして いた。

結局、最後まで八戸出身の女子とは相いれないと感じたまま、地方出身の特別仲良しの友達ができることもなく、彼女はガツガツしない程度の就職活動を終えて、働き出す。働き出しても学生の頃と同じかそれ以上に、地方出身の女の子たちとの格差はあり続けた。

「実家が田舎だからしょうがなく狭いマンション借りて住んでるだけなのに、なんで、自分たちは自分たちのお金で暮らしてます、みたいな顔してくるのか謎。アンラッキーなのを認めたくないから、こっちを実家に甘えて大人になりきれてないみたいにバカにしてるんだと思ってた。買い物行って、高いコート買っただけで、『いや、私自分で稼いで暮らしてるから無理』とか、貧乏人の遠吠えみたいに聞こえる

 仕送りの有無はさておき、全員が半分子供半分大人だった学生時代に比べて、社会人になると都心の実家に暮らす彼女を単純に羨ましがるのではなく、自分の自立っぷりをひけらかすような同僚もいた。それでも彼女は、自立への焦燥感を募らせるのではなく、自分の幸運に安堵することの方が多かった。試しに始めた一人暮らしも、実家から30分以内の距離だったし、「いつでもやめられるしやめたところで今の生活を失わない」という絶対的な安心感に守られたものだった。

恵まれてるとか、自立してないとか言われても

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