どうも。「たそのたそによるたそのための偉業でもなんでもない半生自伝」も、とうとう10回目を迎えましたよ。あるもんですね! なんでもない人生にも「エピソード」が。
ただね、エピソードを丁寧すぎるくらい思い出して書いててふと思ったんです。 「え、まだ音楽学校生の話なの?!」と。 そうなのよ。音楽学校生活でも2年あるのよ。まだまだあるのよ。 でも、そろそろ「劇団編」に突入したいので、今回で超強引に卒業エピまで行こうと思います。
ついてこれるか。この電光石火クロニクルに。 ……ついてこいよ!(すみません、何卒宜しくお願い致します)
それでは位置についてゴー♪
試験結果を存分に活かせ!
宝塚音楽学校では、2年間様々なことを学ぶだけでなく、その成果を発表する催し物が開催される。
春:演劇・日本舞踊発表会
秋:秋の音楽会、洋舞発表会
と、各科目に分けた発表会があるのだ。
そして、すべての科目の集大成を見せるのが、卒業前に行われる冬の「文化祭」である。
「文化祭」という名前だが、決してお化け屋敷とか喫茶店などの露店を出したり、軽音部のライブなどがあるワイキャイした祭りではない。 文字通り、「宝塚歌劇という名の文化」の祭りだ。
文化祭は、宝塚大劇場の隣にある、若手スターの登竜門的劇場の「宝塚バウホール」(収容人数526名)で行われる。 他の発表会は、基本的には生徒の親族や関係者の方など、近しい間柄の人しか見ることができないのだが、文化祭だけは、一般のお客様へもチケットの販売があり、この時に「未来のトップスター」を見出そうと、たくさんの方が観劇しに来てくださる。 この、年に4回開催される発表会に、前回説明した試験の結果が反映されるのだ。
1年目の予科生の時は、発表会のパフォーマンスは「全員による合唱」のみで、秋の音楽会と文化祭にしか出演できないが、2年目の本科生になるとすべてに出演できるうえに、全員の場面だけではなく、試験結果を参考に10人口やペア、さらに、上位の子になるとソロで一曲歌ったり踊ったりすることもできる。
なので、1年目は試験結果があまり良くなくてもさほど気にならないが、2年目になると、いつもは一緒にアホなことをして楽しんでいた同期も、この時ばかりはライバルとして互いに自分の場面を勝ち取るために必死に試験に挑む。
そんな、音楽学校生活最後の大舞台である「文化祭」の出演場面の中で、私にとって人生最大の難関だったのは、演劇でも声楽でもダンスでもなく「ピアノ」だった。
手首と指の限界突破
当時、器楽は「三味線」「琴」「ピアノ」の3種類から先生方が試験結果を参考に振り分けられ、2年間同じ楽器を学ぶことになっていた。
私はもともとピアノを習っていたので、できればそれ以外の楽器を教えてもらいたかったのだが、割り振られたのもなぜかピアノだった。 そしてその担当のK先生が、めっちゃ体育会系な女性の方だった。
「弾きたい曲はある?」と聞かれ、当時「印象派」の音楽が大好きだった私は、ドビュッシーの『プレリュード』という曲を選んだ。 先生は最初こそ優しく教えてくださっていたのだが、段々と「もっと強く、f〈フォルテ〉!(音楽用語で「強く」の意味)」と、何度も強く弾くことを求められた。
もともと優しい曲調が好きな私はこれまであまり鍵盤を強く叩いたことがなかったが、なんとか先生の要求に応えようと、強く強くピアノを鳴らした。
その曲を一通り弾き終わったあと、先生に「あなたにはこの曲の方が似合う」とラフマニノフの『前奏曲 作品3の2/嬰ハ短調 鐘』という曲を渡された。
そこで私は、生まれて初めて「fff」という音楽記号を目の当たりにした。 「フォルテッシッシモ」と読むそれは、「できるだけ強く」を意味し、簡単に言えば「f〈フォルテ〉」の3倍強くしろ!という意味だった。(話は多少ズレるが、雪組さんの次の本公演も「fff」でしたね。運命!)
「おいおい……序盤の序盤からやけに強さを求めるじゃないか……こりゃあ最後の方はもっと強さを求められるんじゃ……」
予想した通りだった。 終盤に差し掛かった時、「sffff」というフォルテの権化のような恐ろしい記号が現れた。
「フォルテシシッシッシッモ」とでも読むんだろうか。そんな、鬱陶しいハエを追っ払うような名前の音楽記号があるんだろうか。ていうか頭のエスってなに。スーパーか?
そんなことを思いつつ、先生に「フォルテ!」と言われながら、毎日ひたすら練習した。
弾いていてとても苦しくなるような、悲しい旋律。譜面の端にたくさん書いてあるツイッターのハッシュタグのような「♯〈シャープ〉」という楽譜の変化記号。これがたくさんあると、それだけピアノの鍵盤上の黒い方(黒鍵)を弾くことになり大変。というか正直しんどい……でも、何とか弾き終わることができた。
「よし。次は絶対優しい曲を弾くんだ。坂本龍一のエナジーフロウ(当時流行ってた)とか弾くんだ」
そう思い、教室に入った。 しかし、K先生は私が入るなりすぐさま次の譜面を渡してくる。
ラフマニノフの『前奏曲 作品23の5/ト短調』
……ラフマニノフ!!!!
まさかのラフマニノフアゲインに卒倒しそうになったが、なんとか耐え、譜面を開いた。 今度は脱色したオタマジャクシのような「♭〈フラット〉」という記号が2匹現れた。 そして、「久しぶり!」とでもいうように「シャープ」もちょいちょい臨時記号で出てくる。
いいんだよ! 臨時で出てこなくても。休んでてよ!
そんなことを思いながら練習を始めると、前曲の『鐘』よりもテンポが早く、それでいて強さも変わらず、むしろより強さを求められる。 そして押さないといけない鍵盤の数がやたら多い。
元々そんなに手が大きくない私にとってこれはめっちゃ大変だった。 毎回終盤に手が攣りそうになりながら、なんとか弾いているような状態だ。 先生には相変わらず「フォルテ! フォルテだよ!」と言われ続けていた。
2か月ほどたった頃、厳しい練習も何とか終わりを告げた。
「ようし。何とか終わった。ありがとう、ラフマニノフ。さようならラフマニノフ」
そんな気持ちで教室から出ていこうとしたその時、K先生がとんでもないことを仰った。