藤崎彩織の旋律力
なぜだかわからないけど、ものすごく感情移入したくなる。
「流れるような文章」という表現。たまに耳にしますよね。
つるつる、さらさらした文章。つっかかることなく読める文章。
でも実際、どういうふうに書けば「文章は流れるのか?」…って聞かれたとしても、うまく答えられません。
たとえば句読点をほとんど打たずに、だ——って最後まで書き切ったところで、それが「流れが良い」と言えるのか。きっと言えない。
一方で「音楽が流れている」って言葉は、感覚的に理解できる。
音楽は基本的に「流れる」 もの。
なぜそのように聴こえるかと言えば、同じテンポで流れているから。
そのまま流れていれば心地いいし、途中でテンポが変わったり、急に止まったりすれば「えっ」って違和感が生まれる。
じゃあ、文章でいうテンポってなんだろう。
はいっ! 話が抽象的になりそうなので、実際に「流れるような文章」をお見せします。
人気バンド SEKAI NO OWARI の作曲・ピアノ担当の藤崎彩織さんは、アーティストということもあってか、「文章の流れ」がよく練られています。
冒頭の「実際のところ、」から「一ヶ月後には全国ツアーを控えていたので、その練習をする為だ。」まで読んでみてどうですか。
ここまで「文章が流れている」のが分かりますか。
なぜでしょう。句読点が少ないからでしょうか。言葉が韻を踏んだりしているからでしょか。接続詞の使い方が正しいからでしょうか。
きっと違いますよね。
前半の要素をいくつかピックアップしてみましょう
〈要素A〉平均的な育休期間に比べるとかなり短いけど、私は産後二ヶ月で仕事に復帰できた。
〈要素B〉周囲からは復帰は体調が戻ってからでいいと言われていたけど、私の体調はとても順調だった。
〈要素C〉やや体力が落ちたとは感じていたが、妊娠前よりよく眠れるようになった。
〈要素D〉(心配して止められるかと思ったが、)夫や母などの家族たちも仕事をすることを応援してくれた。
わかりますか。
実はここまでの文章は、ぜーんぶ同じ趣旨のことが書かれてたのです。
つまりすべて〈心配していたけど、うまくいった。〉ということ。
ポジティブな出来事、ポジティブな出来事、ポジティブな出来事という止まらない流れによって、産後の復帰に対する不安が杞憂だったという様子が、畳みかけるように伝わってきます。うまくいってる、よかった、とホッとする書き手の笑顔が見えるようです。
でも、このあと突然、こんな一文が差し込まれます。
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