どうも。先日とある舞台を観に行ったのですが、開演ベルが鳴ったと同時に、客席のどなたかの着信音が鳴り響いたんです。
「ブ——」という低音のブザーに合いの手を入れるように「テン・テレテンテレテンテンテン↓テン↑テン↓テン↑テン↓」というリズミカルなメロディが鳴り響き、直後「ガサガサガサ」と慌てふためいているであろう効果音を背後に感じながら、緞帳が上がっていくのを眺めておりました。
その時ふと「開演時間ピッタリに電話がかかってくるって逆に凄いな」と思いまして、そこから
「きっとその方は今は心臓バックバクだろうけど、後で近しい方に『こんなことがあって……』と話すんだろうな。それで、聞いた人はその人の心中をお察しして『それは大変だったね。でも、そのタイミングで鳴るなんて、“持ってる”ねー』とでも言うのだろうか。でもこの場合の“持ってる”って、そんなに嬉しくないのかもしれないなあ。じゃあ、超素敵な“持ってる”ってどんなんがあるかしら。私はまず“雨女”という点では“持ってる”。でもこれはそんなに嬉しいことではない。ただ、干ばつに困っている地域の人にとっては超うらやましいことなのか……?」
と、謎の思考回路の沼にハマり、ハッと我に返ったころにはオープニングテーマの前奏が過ぎ、全員が歌いだそうとしていました。
危うく公演を気もそぞろに見るところだった。いや、冒頭気もそぞろだった。なんと勿体ないことを……。
この時はこの“持ってる”の最上級の答えは出なかったのですが、今になって「この連載“持ってる”の宝庫じゃん!」ということに気づきました(気になる方はぜひバックナンバーをご覧あれ)。
さて、今日はどんな“持ってる”エピソードになることやら……。
緊張の一瞬!宝塚音楽学校の試験
宝塚音楽学校では、入学してからも「前期・後期(中間・期末)」と1年に3回試験がある。「声楽(調音・クラシック・ポピュラー)、クラシックバレエ、モダンダンス、タップダンス、選択器楽、演劇、日本舞踊」と、7科目+何種類かの課題があり、試験期間は1週間ほどだ。
試験は全て採点方式で、生徒は各科目の合計点によって順番づけられる。
この順番は単なる「成績発表」ではなく、宝塚音楽学校で開催される様々な発表会の「配役」にも反映されるので、みんな必死で試験に挑む。 また、入学試験の時とは違い、日々レッスンして下さる先生方が試験官なので、ここで日ごろの成果をきちんとアピールできないと、「練習の時の方ができてたよね」的なことを後日言われることになり、めちゃめちゃ凹む。
そのため、試験当日の教室は宝塚音楽学校入学試験と同じくらい、むしろそれ以上のバッチバチに緊張した空間になり、いつもは和気あいあいと仲良くしていた同期もやはり「ライバル」なんだ、と再認識することになるのだ。
誰ひとり不真面目な人間などいない、真剣勝負の世界……。
しかし、この真剣さが、逆に悲劇を招くこともある。
それは演劇の試験のときだった。
その試験では1週間前に課題としてモノローグ(一人芝居)のセリフが配布され、当日はみんなそれを暗記してのぞむことになっていた。先生方はみんなの演技を見て「課題のセリフをしっかりと暗記し、そこに描かれているテーマをとらえ、表現することができているか」を判断し、点数をつける。
それぞれが思い思いに読解して動きをつけ何度も練習するのだが、当日のピンと張りつめた空間で悪役商会の人たちのような表情で淡々と採点する先生方を前にすると、それまでやってきたことが急にわからなくなってしまう。緊張してセリフすら出てこないこともあるので、みんな必死にセリフを心の中で復唱しながら順番を待つ。
試験を受ける順番は、2グループに分けられた生徒たちの片方が全員で教室に入り、名前順で「あ」からか、「わ」からカウントダウンか、どちらかで進んでいくという方式だ。その時はカウントダウン方式で、私はかなり後の方だった。
当然ながら、後になればなるほど、他の人の試験風景を目にする機会が多くなる。
あ、この子の演じ方良いなあ。お、そんな手があったのか、フムフム……と参考になると思いきや、他の人の芝居を見ることで、それまで自分の中で温めてきた演劇プランが「揺らいで」いく。また、緊張のあまりセリフを忘れ、ズタボロになった同期を見てしまうと「次はわが身……」とこちらまで委縮してしまう。
できるだけ外からの影響を受けないように、心の中で「大丈夫、お前はできる……」と唱え、自分のメンタルを丁重に扱いながら順番を待つ。
そして、やっとあとひとりで自分の番というところまでやってきた。
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