食べものの裏側」を知ると人生が変わる

東北の農業や漁業の現場を取材したタブロイド紙と、野菜や魚などの生産物をセットで届ける新しいタイプのメディア「東北食べる通信」。その名物編集長が、「都市」と「地方」を切り口に、これからの農業・漁業、地域経済、消費のあり方、情報社会における生き方までを語り尽くした、『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書)を、cakes読者に特別公開します!

四 「食べものの裏側」を知ると人生が変わる


◆生産者の存在を知る

農漁村の生産者たちは、人間の力ではコントロールできない自然に働きかけながら命の糧を得る生産活動を続けている。比較的安定した気候の西欧と異なり、台風や地震など荒ぶる自然と向き合ってきた日本の生産者は、技を磨き、知恵を絞り、自然を畏れ敬い、それらを伝承してきた。だから日本の一次産業のレベル、品質は世界有数である。読めない天候を相手に、自然と対話し、風や潮の流れを読み解きながら、受け継いだ技や知恵を駆使して仕事をしている姿を見ていると、ものすごくクリエイティブな仕事だと感じる。

宮崎駿氏がジブリ作品で描いた八百万の神の世界は、世界から高い評価を受けた。人間が自然を支配しようとしてきた西欧の一神教的世界観に対し、人間が自然と折り合いをつけ、共存しようとしてきた多神教的世界観に、欧米人からも共感が広まったのだ。

私は一二年前にふるさとの岩手に帰郷してから、多くの生産者たちと出会い、その多神教的世界観を現代の消費社会で一番体現しているのは、この人たちだと思った。ところがその生産者たちが日本では疲弊している。後継者不足、高齢化、離職化の嵐にさらされている。

この落差はどこから生まれているのだろうか。それは、現代社会で最も価値ある部分を一次産業が有しているのに、その部分がまったく世の中に伝わっていないからではないだろうか。その価値が正確に伝われば、私の中で起こったような変化が同じように起きるのではないだろうか。


◆5K産業といわれて

食べものの裏側にある価値を伝える情報が消費者にない結果、生産者の現場は「きつい、きたない、かっこ悪い、稼げない」、挙げ句の果てには「結婚できない」5K産業などといわれ、若年層は一次産業から遠ざかってきた。本来の価値を正当に評価されているとはいいがたい状況が長年続き、その裏返しとして、生産物まで買い叩かれてきた。

けれども、都市の消費者に対して食べものの裏側、つまり生産者の姿を「見える化」し、彼らの生き様、哲学、世界観を伝えたらどうなるだろうか。

食べものの裏側(=生産者)の情報を手にした人は、私のように生産者を見る目が変わる。その世界観を知れば、共感と尊敬の念を持って生産者に接するようになる。その結果、生産者の社会的地位は向上し、その結果収入も増え、目指す若者も増える。

販路拡大やブランド化など、まずは生産現場の収入を上げようというところから入るビジネスはこれまでたくさんあった。しかし、この悪い流れを断ち切ることはできなかった。それどころか、むしろ悪化してきた。

何が足りなかったのか。それは、生産者の社会的地位を上げるところから入るビジネスの存在だ。これが皆無だったのだ。それは消費者の意識を変えるというビジネスにしづらいアプローチだったのだ。

収入を上げる取り組みと社会的地位を上げる取り組みは、どちらも必要だ。つまり生産者側、消費者側の両方から変えていく必要がある。巨大な流通システムによって生産者と切り離されてきた都市の消費者が店頭で得られる情報は、値段、見た目、食味、カロリーなどすべて消費領域のものだ。もちろんこうした情報も大事だが、決定的に欠けていたのは食べものの裏側、つまり生産者の情報だったのだ。

その可視化は、国の政策を待たずに私たちの手で実現できることだ。

食は命に直結する。人間にとって最も大切な「命」を支える食を大きなシステムに依存していると、そのシステムがダウンした途端にたちまち私たちの命は危機に瀕する。そのことを、私たちはあの大震災で実感したはずだ。だから一部分でもよいから、食を自分たちの手が届く範囲に取り戻し、経済的にも精神的にも自立を模索していくことが大事ではないだろうか。

知事選の落選以降、そのための取り組みが、私の中で始まっていった。

高橋博之さんがはじめた「ポケットマルシェ」(全国の農家・漁師と会話しながら食材を買えるアプリ) もぜひご覧ください!

これまで語られていた「地方創生」の概念を覆す、新しい都市論、地方論!

この連載について

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都市と地方をかきまぜる 「食べる通信」の奇跡

高橋博之

東北の農業や漁業の現場を取材したタブロイド紙と、野菜や魚などの生産物をセットで届ける新しいタイプのメディア「東北食べる通信」。その名物編集長が、「都市」と「地方」を切り口に、これからの農業・漁業、地域経済、消費のあり方、情報社会におけ...もっと読む

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