男です。男社会がしんどいです。

今回、牧村さんのもとには「取引先から接待を受ける立場にあるのですが、この接待が、私にとって嫌で嫌で堪らない」という男性からのお悩みが届きました。牧村さんは、相談者さんの文章力のすごさを絶賛しながら、この社会を生き抜くためのサバイバル術を提案していきます。

※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

すごいご投稿を頂いてしまいました。

「男です。男社会がしんどいです」というお話なのですが、誰のことも責めようとしない。男、のみならず、なんらかの仕組みのなかでなんらかの役割を背負った経験を持つすべての人に、すんごい響く文章です。

読んで欲しいです。全文そのまま掲載します。

牧村さん、こんにちは。匿名希望、30代半ばの男性です。
私が相談させていただきたいのは、仕事の接待の席での不快感をいかにしてやり過ごせば良いか、ということです。

私は現在、所属する会社で、とある部門のマネジャーをしています。仕事の性質上、私は社内におけるある種の決裁権を持っており、取引先から接待を受ける立場にあるのですが、この接待が、私にとって嫌で嫌で堪らないものなのです。

接待は大抵の場合、私の会社と取引先をあわせて4〜5名程度で行われます。古い体質の業界ということ、私はマネジャーとしては年齢が比較的若いということもあって、ほとんどの場合、私以外は私より年長の男性です。そして、どの接待でも話題は判で押したように同じです。酒、女、ゴルフ、車、スポーツ、ギャンブル。必ずこのどれかの話題なんです。これが耐え難く苦痛です。

サラリーマンの接待なんだから、まあそんなものじゃない?そういうのが好きじゃない人もいるだろうけど、仕事なんだし、そのくらいは仕方ないのでは?というのが、一般的な意見かもしれません。私自身もそう思うのですが、私の個人的な事情が、ことを厄介にしているのです。

私は同性愛者です。たった1人の親友を除き、家族にも友人知人にも、もちろん職場にも、カミングアウトしていません。セクシャリティとパーソナリティは別のものなので、男性の同性愛者といっても、趣味嗜好や性格は千差万別だと思いますが、私は子供の頃から、一般的に男性が好むべきとされているものにことごとく興味がなく、一般的に女性の領域とされているものに惹かれていました。ジャンプよりなかよし、ドラゴンボールよりセーラームーン、体育より音楽と家庭科、そういう少年でした。それなりに生きづらさもコンプレックスもありましたが、そういう自分の価値観を、あまり否定せず、大切にしたいと思って暮らしてきました。

その一方で、私は臆病で空気を読みすぎるくらい読むタイプでもあり、長いものには巻かれろ、多数派の機嫌を損ねるな、というのが、私の処世術となってしまっています。気の合わない人とはあまり付き合わずにいられた学生時代はともかく、社会人となってからは、「あー、やっぱり世の中は想像以上に旧態依然とした男社会なんだ」と感じつつ、そのルールから大きく逸脱しないように、適当に嘘をつきながら、そつなく振舞ってきたつもりです。意外に上手に振る舞える自分を、むしろ誇りに思ってさえいました。学生時代はうまく馴染めなかった男の子たちのコミュニティに、遅ればせながら参加を許されたような安堵感すらありました。

でも、ここに来て、男社会のルールを凝縮したような接待という試練を前に、「無理、無理、無理ー!」という気持ちが、自分の内側から溢れ出しそうになっています。客観的には、私は接待を受けもてなされているのですが、主観としては、ひたすらハラスメントを耐え忍んでいる感じです。酒、女、ゴルフ、車、スポーツ、ギャンブル、かけらも興味ない話題の前で、自動微笑み相槌マシーンになっている自分。大して親しくもないおっさんから、なぜか武勇伝として披露される、パートナー以外との性体験や国内外の性風俗体験情報と、それに対して「さすがっすねー!いやー、僕はまだまだ勉強不足で」とかコメントする自分。そんな自分を、子供の頃の自分が、ゴミを見るような目で見ている気がする。接待が終わると、駅まで全力疾走したり、帰りの電車の中で延々泣いてしまったり、若干奇行とも思える行動が制御できなくなることも時々あり、ちょっと自分自身に危うさを感じ始めています。

私は、決して取引先の方々を糾弾したいわけではないんです。相手だって仕事でやっているのだから、そんなに楽しいわけでもないだろうし、「接待とは、男同士の付き合いとは、こういうもの」という、世の中が長年かけて完成させたお作法をみんな踏襲しているだけで、誰にも悪意はないことはわかってます。自分だけが聖なる被害者で、周りは無神経な加害者だ、なんて、偏ったことを思いたくはないんです。いや、やはりこんな書き方をしてる時点で、一方的に自分を聖なる被害者ポジションに置いている気もしますが… 私だって、何かの場面では多数派として無神経に少数派を傷つけていることは、絶対あるはずですし、気を許した間柄なら、ちょっとゲスな話題で盛り上がる楽しさも知っています。それに、さりげなく話題を違う方向に誘導できるような話術やコミュニケーション力が私に足りてないのかも、とも思います。

でも、しんどい、逃げたい、という気持ちが、無視できない大きさに育ってきています。どうすれば、この気持ちに折り合いをつけていけるでしょうか。これまでのところ、接待を終えたあとには、なるべくマッチョでホモソーシャルな価値観とは対極にあるような映画や音楽や小説や漫画などのコンテンツ(大島弓子さんの作品とか)を中和剤として摂取する、という対処法が、心をなだめるのに有効だったのですが、最近あまり効かなくなってきました。

長文乱文失礼しました。今後も牧村さんの連載を楽しみにしております。

(全文そのまま掲載しました)

えっと……

プロの方ですよね?(文章の)

「聖なる被害者ポジション」
「かけらも興味ない話題の前で、自動微笑み相槌マシーンになっている自分」
「世の中が長年かけて完成させたお作法をみんな踏襲しているだけで、誰にも悪意はない」

ものすごい文章力。この感じが言葉になっている、この文章を読むだけで、何かが静かに癒されていく人、きっといると思います。

しかも、「酒、女、ゴルフ、車、スポーツ、ギャンブル」みたいな接待のあとで摂取する中和剤が、大島弓子先生。あの、少女漫画界に決然と吹き抜けた一陣の春風、花の24年組・大島弓子先生の作品ですって……?

うーん

よい◎

つらいライフを生き抜くために、よいコンテンツを摂取する。その結果がこの文章力、この言語センスでしょうか。そんな方に読んでいただけていることを嬉しく思います。

さて、「男です。男社会がしんどいです」という今回のお話。拡大すると「人間です。人間社会がしんどいです」ってなもんで、なんでかっていうと“当然そうだよね、で進む話”に対して自動微笑み相槌マシーンになることで心が死ぬからですよね。

ご投稿者の方の場合、余計重いのが、きっと、「年上が年下を接待する」ってシチュエーションであることだと思うんですよね。たぶん、接待の場で「国内外での性風俗体験情報」をしゃべってるお取引先の人(年上)もけっこうつらいんだと思う。「仕事とはいえ年下のゴキゲン取りをなんでしないといけないんだ」みたいな葛藤が、ゲスな話題で盛り上げている感じを出しつつの「俺はやったったぞ」マウントにつながっているんだよね。で、「さすがっすねー」って言われるんでしょ。あはは。ご投稿者の方が帰りの電車で延々泣いていらっしゃる頃、相手の方もトイレで立ちションしながらふと我に返ってるんだと思う。「え、俺だけフルチンだったじゃん」って。「あんだけ俺がフルオープンかましたのに“さすがっすね”しか返ってきてないじゃん、あいつめっちゃ着衣じゃん。しかも俺よりいいスーツじゃん」とかってね。泣けちゃうね。でも泣かないんだろうね。泣くな男だろって言われて育ってたりとかしてさ。ブルブルっ。

お疲れ様です。人間社会。

死にかけた心を何かでうるおして生きていく、それも立派なサバイバルだと思います。が、それも効かなくなってきたと。じゃ、サバイバル方法拡張会議、しましょうか。わたしから提出する議案は3つです。

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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コメント

Nixie_SS 文豪がおる… 8日前 replyretweetfavorite

hosoyum これ、心理部分、自分みたい。‖ 15日前 replyretweetfavorite

ootori_S57 |ハッピーエンドに殺されない|牧村朝子|cakes(ケイクス) 大変そうですね、まぁ、うん。 接待(する、される)宴席でも艦これ起動してるマンなのでよくわからないけど... https://t.co/LRcJdEKrPL 19日前 replyretweetfavorite

tatuki_h 「ようく聴いて得た情報をもとに、その人の子供時代へ話を持っていく感じで訊くのが好き。なぜならその人の子供時代というのは、まだその人がその役割を課せられる前の根っこがわかる話だから」。これいい。試してみよう。https://t.co/x9oBiOMtOv 22日前 replyretweetfavorite