実は不妊の原因の半分は男性側にある。

50歳を目前に、元也は急にそれまでの生活に違和感を感じるようになる。建築士としての仕事は充実していたし、年のわりにモテてもいる。でも自分が求めているのは、落ち着いた生活だ……、そう気が付いた元也は婚活サイトに登録、美貴子と出会うが……。
 妊娠と出産にまつわる切実な想いを描いた7編の短編集『産まなくても、産めなくても』から「水のような、酒のような」を特別公開。

結婚して三ヵ月ほどたった頃だった。雲江は、いつものように、ベッドサイドの引き出しから、コンドームを取り出した。事務的に袋を開けようとすると、美貴子がすすり泣いていた。

「へ? どうしたの?」

 聞いても、黙っている。まったく、わけがわからない。

「何かあったんなら、ちゃんと話してよ」

「これ……、おかしくない?」

「これ?」

 美貴子はゆっくりとした仕草でコンドームを指差した。

「夫婦なのに、コンドームなんて変よ」

「そっかなぁ。だって、子供が出来ないようにするには、これが一番……」

 言葉が終わらないうちに、今度は声をあげて泣き出した。

「そんなに嫌なの? 私と家族になるのが」

「いやいやいや、おれたち、もう家族でしょ」

「これじゃあ、単なる同居人じゃない。一緒に大きな責任を背負わなきゃ家族じゃないわよ」

「えぇ、でも、ミキちゃん、仕事続けたいから子供は要らないって。だから、出来ないように配慮しなくちゃいけないもんだと思って」

「何いってんの? 仕事を続けることは、子供が要らないこととイコールになんかならないよ」

「じゃあ、欲しかったの? 子供……」

「過去形でいわないで」

「欲しいの? 子供」

「絶対に産まなくちゃとは思っていないけど、そんなのまで使ってがっちり避妊しなくたって……」

 やっぱり、女の人は本能的に「産みたい」ものなのだろうか。コンドームを引き出しに戻して、美貴子にキスをした。

「子供はさ、自然に任せることにしようよ。きっと神様がおれたちにいいようにしてくれるでしょ」

 そういってはみたものの、その夜のセックスはぎこちなかった。

 翌朝、トーストとサラダと目玉焼きを目の前に美貴子はいった。

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この連載について

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産まなくても、産めなくても

甘糟りり子

妊娠、出産、育児、家事……全くもって女性の人生は大変だ。女であるというだけで「あたりまえ」にできることが要求されるのだから。そして仕事をしたければ、その「あたりまえ」でさえ手放さなければならない。女性は、果たして「産む」だけの機械なの...もっと読む

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