岸見一郎 /古賀史健
第四夜 vol.4 哲人は断言する。「勇気を持つ条件はひとつしかない」
他人を叱ったりほめたりすることは人間関係を「縦の関係」で捉えている証拠。大切なのは「横の関係」だと哲人は青年を説得しました。しかし、一時は納得した様子を見せていた青年は、哲人の「勇気づけ」という言葉を聞くやいなや、前言と矛盾していると激しく糾弾します。「勇気づけ」と「ほめる」ことの違いとは一体何なのでしょうか?
縦の関係から横の関係へ
哲人 課題の分離について説明するとき、「介入」という話をしましたね。他者の課題に対して、土足で踏み込んでいくような行為のことです。
それでは、どうして人は介入してしまうのか? その背後にあるのも、じつは縦の関係なのです。対人関係を縦でとらえ、相手を自分より低く見ているからこそ、介入してしまう。介入することによって、相手を望ましい方向に導こうとする。自分は正しくて相手は間違っていると思い込んでいる。
もちろんここでの介入は、操作に他なりません。子どもに「勉強しなさい」と命令する親などは、まさに典型です。本人としては善意による働きかけのつもりかもしれませんが、結局は土足で踏み込んで、自分の意図する方向に操作しようとしているのですから。
青年 横の関係を築くことができれば、介入もなくなる?
哲人 なくなります。
青年 でも、勉強の例ならともかく、目の前に苦しんでいる人がいたら、放置することなどできないでしょう? それも「ここで手を差し伸べるのは介入だから」と、なにもしないのですか?
哲人 見過ごすわけにはいきません。介入にならない「援助」をする必要があります。
青年 介入と援助の、どこが違うというのです?
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この連載について
岸見一郎 /古賀史健
「世界はどこまでもシンプルであり、人はいまこの瞬間から幸せになれる」――古都のはずれに、そんな持論を語る哲学者が住んでいました。人間関係に苦悩し、人生の意味に悩む「青年」は、到底納得することができず、その真意を確かめるべく哲学者(哲人...もっと読む
著者プロフィール
株式会社バトンズ代表/ライター。1973年生まれ。一般誌やビジネス誌で活動後、現在は書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、実用書、ビジネス書、タレント本などで数多くのベストセラーを手掛ける。著書に『嫌われる勇気』(共著/岸見一郎)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、インタビュー集に『16歳の教科書』シリーズなどがある。
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。古賀史健氏との共著『嫌われる勇気』では原案を担当。