すれ違うコミュニケーションの貸し借り
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 桃山商事の恋バナ連載、今月は「恋愛と貸し借り」について語っています。
ワッコ 前回は、わたしがアプリで知り合った、自分の話しかしない“俺プレゼン”男の話を紹介しました。
森田 Twitterで反応してくれた女性がすごく多かったよね。「前の彼氏がそうだった」とか、「私の職場にもいる」とか。
ワッコ みなさまが“俺プレゼン”のムカつきをわかってくれて、うれしみが強かったです。
森田 「貸し借り」についておさらいしておくと、「あげたもの」よりも「もらったもの」が多いと感じたときに発生するのが借りの感情で、その逆が貸しの感情ということだった。
清田 “俺プレゼン”みたいに気持ちよく自分の話をできるのは、聞き手が気を使いつつ傾聴してくれるからだけど、俺プレゼンターはそれを「借り」とは思ってないことが多そうだよね……。
森田 ただ、その辺の感覚って人によって違うから難しいところもあると思うんだよ。これは常連投稿者の「漁師の娘」さんが教えてくれたエピソードで、元カレがすごいおしゃべりな人だったんだって。娘さんも普段はよくしゃべる方なんだけど、相手の話を聞くのも好きだから、2人でいるときはいつもカレが話をする側だった。
ワッコ まさに“俺プレゼン”タイプだったわけですね。
森田 あるとき些細なことが原因で喧嘩になって、怒った彼は「しかも、いつも俺ばっかりしゃべってるじゃないか!」と口にしたらしい。
清田 ええっ!?
森田 つまり、2人でいるときに自分がしゃべっているのは「不公平」だと主張したわけ。娘さんとしては、彼は話すのが好きでそうしているのだと思っていたし、そもそも自分がしゃべりたくないわけじゃないから、びっくりした。
ワッコ 予想外の方向からきたな、みたいな。
森田 彼の中で沈黙はネガティブな印象があって、沈黙しないためのコストを自分が一方的に払っている意識があったんだと思う。
清田 がんばって喋ってたってことだよね。その気持ちはわかる気もする……俺も沈黙に弱いタイプだから、「この人あんまり喋んないかも」と思ったら、間を埋めるための会話をしてしまうことはある。
ワッコ そういうときは世間話をするんですか?
清田 それもあるし、相手が興味を示してくれそうな話題を探ってみたりとか。ただ、これは仕事相手や初対面の人の場合だけど。
森田 その種の気遣いは理解できるんだけど、恋人から「自分ばっかりしゃべってるじゃん」と怒られたら、やっぱり驚いちゃうと思う。
ワッコ 「俺ばっかりしゃべってごめんね」だったらわかりますけどね……。彼は、「今日は何を話そう」とかいつも考えてたのかなあ。
森田 結果的に彼のなかでは「貸し」の感情が溜まってしまっていたわけだけど、娘さんはそれを「借り」だとは思ってないから、大きな食い違いが生じている。これはどちらが悪いって話でもないんだよね。
ワッコ 貸し借りの食い違いって、かなりあるあるな気がします。
清田 家事とかでもめっちゃ起こりがちだよね。
「送り」と「家事」はトントン!?
森田 じゃあ、家事にまつわる貸し借りのエピソードを常連投稿者の“いつもの先輩”が提供してくれたので、紹介したいなと。先輩はバツイチで再婚をしているんだけど、最初の結婚生活のときは家事を全然しなかったんだって。
清田 おくさんは専業主婦だったの?
森田 いや、共働きだった。だからしないのはおかしいんだけど、当時の先輩のなかには、「しなくても大丈夫」という感覚があったらしい。
ワッコ それは男だからってことですか?
森田 根っこにはそれがあったのかもしれないけど、どちらかというと「貸し借り」の話なんだよね。先輩は毎朝、おくさんのことを家から会社まで送っていたんだって。
清田 どういうこと?
森田 彼女は朝がすごく早い仕事をしていて、大変だからということで先輩が車で送っていたみたい。先輩は一度家に帰ってから電車で出勤していた。
清田 毎朝それだと大変だね。
森田 先輩的にはそのことで彼女に「貸し」があると感じていて、送りと家事でトントンみたいな感覚を持っていたようで。
ワッコ うーん。
森田 離婚直前に大げんかをして、彼女から「家事だって、全然してくれないじゃない!」と言われた先輩は「毎朝送ってるじゃん」と返した。
清田 そこでそう返したか……。
森田 「それとこれとは話が別でしょ?」と言われたみたいなんだけど、先輩としては「別じゃない」と思っていて。
清田 完全に食い違っちゃってるよね。
ワッコ でも、労力や費やしてる時間でいえば、どう考えても「送り」と「家事」はトントンにはならないですよね。
森田 そうなんだけどね……先輩は当時、彼女は「家事が好き」だからやってるんだと思ってたんだって。
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