BLがなければ、確実に暗い青春・人生だった
【質問7】BLマンガは、日本におけるLGBTの社会運動に貢献しているのでしょうか?
溝口彰子(以下、溝口) 直接的に貢献しているわけではないかもしれませんが、これだけたくさんの男同士の恋愛をテーマにした作品があって、なかには、どうすればホモフォビア(同性愛嫌悪)を現実的に、個別的な方法で乗り越えられるかのヒントを示す作品もあるわけです。カミングアウトのシーンが描かれた作品も多い。そういった種類のBLを読むことによって、現実にいるゲイに興味を持つ人も出てくるし、応援するという人もいるかもしれない。そんなふうに、現実にもリンクして、様々な課題に気づかせてくれる作品が、私の思う「進化形」のBLなんです。
ホスト役の溝口彰子さん
私自身、「同性愛は精神病だ」みたいな時代に、自分がレズビアンかもと気づきました。そのとき、『摩利と新吾』(木原敏江)を読んで、その気持ちに自信を持つことができた。だって、摩利が新吾を好きな気持ちが、悪いものであるわけがない。いくら世間に「おかしい」「精神病だ」と言われても、絶対こっちのほうが素敵だから、と思うことができた。それを考えると、『いとしの猫っ毛』など雲田さんが描くBL作品も、同性愛の当事者に、彼らが若ければ若いほど、すごく勇気を与えていると思います。
雲田はるこ(以下、雲田) そうですね。そういった内容のお手紙をいただいたこともあります。支えにしていただけるのは、すごく嬉しいです。
紗久楽さわ(以下、紗久楽) BLをふだんから読んでいると、当たり前のことと思えるんじゃないでしょうか。
溝口 木原先生や萩尾望都先生、竹宮恵子先生たちが描かれた、BLの祖先である少年愛ものがなければ、私の青春や人生そのものは、確実に、ものすごく暗かったと思うんです。根本的に、ホモフォビアを内面化することになっていたと思います。だから、「世間がなんと言おうと、摩利のほうがいいに決まってるし」とあの頃思えたことは、本当によかった。
雲田 マンガの力って、強いですねえ。
溝口 BL作品のマジョリティは、やはりエンタテインメントに特化したものであって、今後も進化形の作品がマジョリティになることはないと思います。とはいえ雲田さんの『いとしの猫っ毛』のように、一部の作家さんが、現実にもリンクした作品を描いてくれることで、そして紗久楽さんの『百と卍』のように、現実の歴史を題材にした、前代未聞の意欲作を描いてくれることで、ジャンルが豊かになっていく。
二次創作などの同人誌ももちろん楽しいのですが、商業ジャンルがきちんと存続しているからこそ、プロフェッショナルとしてやっていける方がたくさんいて、素晴らしい作品が生まれるわけです。だから、買い支えていくのは本当に大切だと思いますね。BL研究者がBL研究で食べていけなくても仕方ないですが(笑)、BL作家さんや編集者さんは、作品で食べていけないと。
紗久楽 見たいカップリングには貢いだほうがいいですね。
雲田 そうですね。私もBL好きとして、好きな作家さんの本は紙も電子も、発売日に買っています。あとめっちゃ勧めます(笑)!
溝口 あ、BL研究者ももちろん、研究書が売れて重版されれば印税は入るので、よろしければ買い支えてやってください(笑)。『BL進化論』のほうは電子版も作っていただきました。
『ハイロー』が教えてくれたこと
溝口 そういえば、先程『HiGH&LOW』の話が出ましたが、雲田さんはこれにハマってから、キャラクターの目が大きくなったと語っていましたね。
雲田 はい。その影響で、いま絵がめっちゃ変わっています。私のマンガには「よくいそうな普通の子」みたいな人が多く、すごくイケメンという設定の人はあまりいなくて。いつかイケメンらしいイケメンをうまく描けるようになりたいと思っていたので、すごく参考になります。
紗久楽 ふたりで一緒に映画に行ったときに、たまたま『HiGH&LOW』を選んで観て、そこからハマってしまったんですよね。
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