連載の途中、特に「自宅ウエディングの『土足問題』をクリエイティブに解決」とかの号で、読者の方から「渡辺さん、感情的にならずプレゼンするなんてすごいですね」と夫への対応にお褒めの言葉をいただき、「何もかも個性的な結婚式」で当日に昼寝をしていた花嫁の父についても「これで怒らない渡辺さんはすごい」と感心していただいた。
けれども私は聖人ではない。実際には、頭の中でひとりの私が「コノヤロ〜」と歯ぎしりしていて、もうひとりの私が「落ち着いて深呼吸しようよ。ここで怒っても問題解決にはならないから……」となだめているのである。いちいち怒っていたら、マイペースのわが夫と平和に暮らすことはできないと過去30年に学んだのである。でも、何人かの方には「キレたこともあるので、それについてもいつかお話します」とお約束した。
今日はお約束どおり、「ついにキレた」告白をしよう。
娘の結婚式では、私たちは最初に「結婚する2人が心から楽しめて、思い出に残る1日を作る」という「ウエディングのミッションステートメント」を作った。
そのステートメントにそった最初の基本方針は、「結婚式は結婚する2人のためにある。親族や親の見栄のためではない」だった。
ところが、「花嫁の父」である夫は、ときどきこれをすっかり忘れてしまう。仕事で日常的に何千人もの聴衆の前でスピーチをするからか、娘の結婚式でもつい「主役」の視点になってしまうようなのだ。
夫の講演風景。この「主役」感覚が日常生活にも出てしまうようだ。
花嫁の父が結婚式でどうしてもやりたいこと
それは、久しぶりに夕食に来た娘と3人でウエディングの段取りを話し合っていたときのことだった。
新郎新婦が手作りしたプログラム
私と娘は、真剣に新郎新婦のダンスや乾杯、ケーキカットのタイミングについて話し合っていた。新郎新婦はどこに位置していて、参列者は何をしていて、どう移動させるののか、といったことだ。当日スムーズに進行するためには、ロジスティクスをきちんとしておく必要がある。
すると、夫が突然口を挟んだ。
「僕のアポロ計画コレクション見学ツアーは、ウエディングのどのあたりに入れればいい?」
娘と私は、驚き呆れて夫を見た。
夫は、アポロ宇宙計画で実際に使われたものや、月や宇宙に行って戻ってきたものを多く所有し、2年前に完了した自宅の増改築のときに小さな「アポロ博物館」を作ったほど、どっぷり首まで浸かっているアポロ計画のコレクターだ。
このコレクションを見るためにわざわざ訪問する人も少なくはないが、結婚式は「コレクション見学ツアー」ではない。
私は怒鳴りたい気持ちを抑えて、「これは、アリソンとベンの結婚式なのよ。あなたのコレクションを見せるための会ではないってわかってる?」と静かに夫をたしなめた。
娘はムカついているのを隠さず「そうよ、ダディ。私の結婚式なのよ!」と同意した。
夫は、怖くない教師に叱られた5才児のように、ちょっとだけきまり悪そうな笑みを浮かべて「でも、きっと見たいっていう人がいるよ」と諦めない。
これにはさすがに私も呆れた。今度はキツイ口調で「見たい人には、別の機会を作って招待すればいいでしょう? これは、アリソンとベンの結婚式なのだから、最初から最後まで2人が主役だということを忘れないで」と言った。
夫が娘と私の説教に口を挟まず静かに聞いているので、理解してもらえたのだと思っていた。ところが、2人が言いたいだけ言って口を閉じたところで夫はこう言った。
「じゃあ、午後8時くらいならいい?」
娘と私は同時に叫んだ。
「NO!」
結婚式の2日前、夫にはじめて猛烈に怒ったわけ
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