結婚式当日に忙しすぎる花嫁の母
ウエディング当日は晴天で、しかも湿度が低くて暑くも寒くもない完璧な「裏庭ウエディング」日和になった。
午前中にリハーサルを終えた後、新郎のグループはいったん新郎の両親の家に戻って昼食や準備をし、式が始まる3時よりも少し前にわが家に来ることになっていた。
午前9時からのリハーサルはカジュアルだけれども重要。黒服の2人は、私がお手伝いとして雇ったお隣さんの長男と彼の友達
シェフのジェイコブはお昼くらいから準備を始めており、新婦とブライズメイドたちも2階の準備室(私たち夫婦の「マスター・スイート」)にこもってお化粧やヘアスタイリングだ。
ふつうのアメリカの結婚式であれば、花嫁の母は花嫁に負けないくらい美しくなるためにウエディングの何ヶ月か前からダイエットを始め、エステに通う。ドレス選びにも時間とコストをかける。そして、式の数日前にはマニキュアサロンに行き、当日は美容院でヘアスタイリングと化粧をしてもらう。これらはすべて、私と夫の結婚式のときに「花婿の母」である義母もやっていたことだ。
だが、私はそういう「花嫁の母」の特権を楽しんでいる暇がぜんぜんなかった。ドレスもネットで注文したくらいだ。
リハーサルと式の間くらいは私にもゆっくりこの瞬間を味わう時間があるだろうと思っていた。だが、それは甘かった。
まず、フラワーアレンジメントが午前中に届くと思っていたのだが、リハーサルが終わっても届かない。注文したベンのお母さんに電話してもらったら、午後1時の配達予定だという。フラワーアレンジメントを屋外に早く出したら萎えてしまうかららしい。
フラワーアレンジメントが届いたら、それを会場のあちこちに置かなくてはならない。また、会場のあちこちに飾るつもりで、赤い薔薇を100本注文していたのだが、それをアレンジする時間も必要だ。
私が焦っていると、リハーサルに出席したブライズメイドやグルームズマン(ウーマン)らは「大丈夫だよ。これだけ沢山いるんだから、指示してくれれば5分でできる」と軽くなだめる。
ところが、花が到着したときには、グルームズマンはベンの家に行ってしまった後で、ブライズメイドは2階にこもって準備中だ。唯一着替えをしなくていい司会役のアナと私とでフラワーアレンジメントを持って会場中を飛び回った。赤いバラをアレンジしている暇はほとんどないので、いくつかカットしてメイソンジャーに入れ、トレイラートイレをあわせた会場全部のトイレに飾った。
ロングドレスを着て何かをやったことがある人ならわかるだろうが、両手に何かを持って階段を上り下りするのはドレスの裾を踏むので自殺行為である。片手でドレスを持ち上げ、片手に両手分のモノを持って最後の準備に駆け回っている私の頭にあったのは「なぜいつも私だけこういうシチュエーションになるのか?」という疑問であった。
そして、いったい花嫁の父はどこに消えたのか?
彼がやっていたのは昼寝である。
午前3時前後という超早起きで仕事も趣味も5人分くらいする彼の秘密兵器は「昼寝」なのだ。周囲に合わせるよりも、自分と自己管理を優先する彼だからこそ多くのことが達成できる、というのは理解しているし受け入れているが、この日くらいは他人を優先してもらいたかった。
私はとりあえず、すべてを終えてから「花嫁の母」らしい身なりを整えるつもりだった。
だが、夫が安らかに充電している間にも、白ワインとグラスを2階のブライズメイドらに届けたり、アナのウエディングケーキのデコレーションの手伝いをしたり、お手伝いとして雇った青年たちに蚊取り線香やキャンドルの配置や火をつけるタイミングを指示したりしているうちに時間切れになってしまった。
アップルウオッチを見て「もうこんな時間!」と自分の髪や化粧を整えるために大慌てで準備室に戻ろうとしたところに最初のゲストである義弟家族が到着した。
時計を見ると、2時15分だ。ちょっと早すぎはしないか?
私はまだこれから娘の帯をアレンジしなければならないし、化粧もしていないのだぞ。
義妹がお喋りを始めそうになったので、「いらっしゃい。申し訳ないけれど、忙しいのでこれで失礼」とすばやく全員にハグし、昼寝を終えて充電が済んだ「花嫁の父」に後は任せた。
化粧をしても、これまで走り回っていたので汗だくで溶けてきてしまう。帯のほうも、焦っているので自分で発案したアレンジが思い出せない。新郎新婦が雇った写真家は娘の帯を結んでいる母の様子を撮影したそうなのだが、見つめられると集中できない。式が始まるまでもう15分しかない…….。今度は冷汗だ。
「どうやって結んだんだっけ?」と焦っている私。
時間と心に余裕がなくて練習のときのように帯をアレンジできなかったのが残念だが、その違いを知っているのは私だけだ(娘は後ろが見えない)。そこで、これも「厄落とし」のひとつである「小さな失敗」だと自分を慰めた。
花嫁とブライズメイドたちが2階で準備している間、1階のリビングルームと外では花婿のウエディング・パーティーと参列者たちが式の開始まで混じり合ってお喋り
私はどうやって入場するのかしら…?
もうひとつ、忙しすぎてこの日まで私がまったく考えていなかった重大な問題があった。それは、「花嫁の母の私がどのように入場するのか」である。