日本では、イジメによる自殺、凶悪犯罪、災害の二次被害などが起きるたびに責任者やメディアが「あってはならないこと」という言葉を使う。
「こういうことは起こるべきではなかった」、「ありえるとは予測できなかった」というニュアンスを込めた言い訳なのだろうが、定番のこの謝罪には虚しさしか感じない。
そもそも、「あってはならない」という発言の背後にあるのは、「起こる可能性はゼロ」という前提だ。この前提だとあらかじめ対応措置を考える必要がないし、同じようなことが再び起こるのを止めることはできない。
たとえ「何かが起こるかもしれない」と安全対策を立てておいても、想定外のことが起こることはある。だから、あらかじめ、起こるかもしれない問題を考えて対応策を練り、失敗した場合に柔軟に対応する心の準備もしておいたほうがいい。
これまで痛い失敗の経験もしている私は、娘のウエディングでも、以前書いた「土足問題」など「ありえる災難」を想定して、対応策を考えるようにした。
もし結婚式当日に嵐がきたら…
その中でも、土足問題以上に私たちを悩ませたのが「天候」だった。
娘の自宅ウエディングでは、屋内をシェフの調理場、ビュッフェのテーブル、ケーキカット、ダンスに使い、前庭は移動式のバーとトレーラートイレに使う。そして、結婚式とそれに続くディナーの席は裏庭で行うという計画だった。
ウエディングで最も重要なことは屋外で行うことになるのだが、どんなに知恵を絞っても「良いお天気」だけは予約はできない。知人のお嬢さんの結婚式の当日はハリケーンで緊急にホテルの宴会場を使うことになったという。私たちは雨の場合を想定して1年前からテントを予約しておいたが、テントではハリケーンに対抗できない。けれども、120人全員を屋内のリビングルームに入れると窮屈すぎて楽しめない。
そこで私が考えついたのが、ガレージを予備の会場に使うアイディアだ。夫が趣味で持っているランドローバーのクラシックカーを入れるために、わが家のガレージは3台車が入るようになっている。悪天候で裏庭が使えない場合には、式をリビングルームで挙げ、ディナーやカクテルパーティーにはリビングルームとガレージの両方を使えばいい。そうすれば120人を屋内に収めることができる。
また、移動式バーはガレージの前の前庭に設置する予定なので、雨に濡れずにガレージでワインやビールを楽しむことができる。
ふだんのガレージ
夫は最初のうち「ガレージなんて……」と言っていたが、私は「準備をしていて結果的にお天気がよくなれば使わなくていい。でも、準備をしていないと大雨で後悔する可能性がある」としつこく主張した。わが家には「傘を持っていけば雨が降らない」という合言葉があるのだが、ここでもそれを使った。
夫の優れたところは、それが何であれ、いったん話し合いで決まったら、文句や愚痴を一切言わずに手早く実行することだ。夫はガレージの壁から床まで完璧に掃除してイケアで購入したカーテンを下げてくれ、その後の飾り付けは私が担当した。
ガレージをウエディングらしく変身
カーテンだけだと壁にかけてある道具や自転車などが透けて見えてしまう。そこで、カーテンの裏に古いシーツや大きな布を重ねたり、前号でご紹介した紙の花や大きな折り紙の鶴などを使ったりして工夫し、3日ほどかけてなんとかウエディングらしい雰囲気を作ることができた。
レイヤーによるイリュージョンでガレージらしさが減るように工夫。
小さな災難は大歓迎!
ガレージの飾り付けがほぼ終わった結婚式2日前にトイレのトレーラーがやってきた。このトレーラートイレは普通の水洗トイレのようなスタイルで、冷房も入っている。それらを稼働するために、ガレージの外にある屋外用のコンセントに繋がなければならない。
ここで起こったのが、最初の災難だった。
業者との対応を夫に任せて屋内の飾り付けをしていたところ、何かが爆発したような「バシッ!」という大きな音がした。「なにごとか?」と不思議に思っていたら、また大きな爆発音が響いた。原因を確かめようと思って外に出たところ、ガレージの前にトレーラーを届けた業者の男性がぼんやりと立っていて、夫が呆れた顔をしている。
大雨の場合には、トレーラートイレと移動式バーが設置される前庭(車回し)とガレージを「つるむ」場所として活用する予定(左端はトレーラートイレ)。
業者の男性がコンセントに差し込んだら、大きな音がしてガレージの電灯が消えてしまった。その男性は、そこで立ち止まって「何が原因でこうなったのか?」とは考えず、即座に別の場所にあるコンセントを使って、今度はガレージの自動扉の開閉もできなくしてしまったというのだ。