平野啓一郎
第7章ダンディズム|コラム③サタン、ヨーロッパ的「カッコいい」の元祖⁉
「カッコいい」、「クール」、「ヒップ」と同様に、「ダンディズム」もまた、反抗が一つの特徴だったが、ボードレールにとっての「男性的な美の典型」は、『失楽園』(ミルトン)のサタンだったーー。平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは、「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日毎日更新)
コラム③サタン、ヨーロッパ的「カッコいい」の元祖⁉
アンチヒーローの祖型サタン
「カッコいい」、「クール」、「ヒップ」と同様に、「ダンディズム」もまた、反抗が一つの特徴だったが、ボードレールにとっての「男性的な美の典型」は、『失楽園』(ミルトン)のサタンだった。
神に反逆して地獄の底に堕ちたサタンが、同志たちを集めて放った第一声は、こんな具合である。
「あの恐るべき武器の威力を、その場に臨むまで知らなかったとは! だが、あの武器があるから、いや、勝ち誇る彼(注・神)が、怒りに任せてその他の痛撃を加え得るからといって、今さら悔んだり、また、表面の輝きこそ一変したにもせよ、あの時のあの不動の決意と熾烈な憤怒を変える私ではない。威信を傷つけられて生じたあの決意と憤怒こそ、私を駆って最強者と一戦を交えしめ、無数の武装の天使らを厳しい戦いに赴かせたのではなかったのか。思えば、彼らもまた彼の支配を憎悪し、この私を首領と仰いで、彼の強力無比な威力に全力をあげて抗し、天の広漠たる平原に於いて、勝敗も定かならぬ激戦を交え、彼の王座を脅かしたものであった。一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ? すべてが失われたわけではない。──まだ、不屈不撓の意志、復讐への飽くなき心、永久に癒やすべからざる憎悪の念、降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!」(第一巻・改行略)
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この連載について
平野啓一郎
『マチネの終わりに』『ある男』を発表してきた平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日...もっと読む
著者プロフィール
1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。小説家。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。
著書に、小説『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)『ドーン』(ドゥマゴ文学賞受賞)『かたちだけの愛』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞受賞)『ある男』(読売文学賞受賞)、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』『考える葦』等がある。
webサイト:HIRANO KEIICHIRO official website
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