台所に立って鍋をしながら飲むのはどうか【スズキナオ】

鍋ってなんかいい。何よりちょっとした非日常な感じが気分を上げてくれる。今回は、お鍋大好きスズキナオさんによる新しい鍋飲みのご提案です。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

夏でも鍋が好き

これを書いている今、夏だ。日焼け止めを塗り忘れて一日外を歩き回っていたら私の顔の出っ張った頬骨や鼻の頭が真っ赤になり、コントの酔っ払いメイクみたいになってしまった。いつもの温度のシャワーを浴びると日焼けしたところが痛い。

そんな季節でも私は鍋が好きである。鍋、つまり鍋料理。と言っても、何か凝ったようなものではなく、白菜ともやしと豆腐としめじぐらいをザクザク切って放り込んでだしパックと一緒に煮るだけ。それをポン酢につけて食べる。ここ最近、辛い大根おろしがたまらなく好きになってきたので、大根の下の方だけカットされた使い切りサイズのものを買い、おろして入れる。このような鍋を私は年がら年中食べている。

これが冬であれば、我が家の子どもらを「冬は毎日鍋でもおかしくないのだ」という感じで説得して一緒に食べることもできるが、暑い季節ともなるとそれも申し訳ないような気がして、子どもにはそうめんを茹でたものなどを出し、自分一人だけで食べたい鍋を食べることになる。

鍋とクラブの共通点

家には10年ぐらいずっと使っている電気加熱式の鍋があって、普段はそれを使って鍋料理を作るのだが、一人だとそれが面倒に思える。そこでどうするかというと、持ち手のついた普通の鍋(袋麺の四角い麺を入れるとちょうど収まるぐらいの大きさのもの)で具材をグツグツ煮込み、できあがったところでテーブルに置いた鍋敷きの上にその鍋を持っていって、そこからポン酢と大根おろしの入った小皿に少しずつよそって食べる。

しかし、鍋好きの人ならわかると思うのだが、鍋というものはグツグツしていないとルックスがいきなり寂しくなる。目の前でアツアツにヒートアップしているところから具や汁をよそうというその、ライブ感。そこに鍋のよさがある。目の前で刻一刻と冷めていく鍋の中に浮かぶ白菜や豆腐を見ていると、「あれ、ひょっとして俺、なんか寂しいもの食べてる?」という気持ちが心の隙間に入り込んでくる。さっき熱湯の中で踊っていたのと同じ具材とは思えないのだ。

クラブでパーティーが終わってパッと電気がつくと床に酒がこぼれていてゴミが散らかっていて隅の方で誰か寝てるやつがいて、ほんの1時間前までは聴いたことのない音楽がデカい音量で鳴り続けて最高だったのに、いきなり寂しくなり「あれは魔法だったのかしら」と思う、それと同じである。

常に今しかない、それが鍋。

だが、繰り返すが、そのライブ感のために、冷蔵庫の上に乗っけて収納してある電気鍋をおろして高温になるまで待って、という一連の時間を過ごすのは面倒である。そのような時に、私は思いついたのだが、台所のガスコンロで鍋をグツグツ熱しながら立って食えばいいじゃないか。

スタンディング鍋の醍醐味

やってみるとこの方法にはいくつかの最高なポイントがあった。まず、冷蔵庫が近い。私の家の間取りでは、ガスコンロに向かって立つ私のすぐ後ろが冷蔵庫だ。ここから必要な具材を必要なタイミングで取り出し、コンロの隣のスペースに置いたまな板の上で必要な量だけ切って鍋に投入し、余ったらタッパーに入れてすぐ冷蔵、というようなことがほぼ移動せずにできる。

もちろん冷蔵庫が近いということは、立って鍋を食べながら飲んでいた発泡酒缶が空になろうものなら、すぐさまキンキンに冷えた2缶目を手に入れることができるということだ。そのついでに冷蔵庫の隅で忘れ去られていた謎の野菜の切れ端みたいなものを発見し、即座に鍋に投入することも可能だ。

そして、食べ終わったらコンロから鍋を持ち上げ、数秒のうちにでシンクに置いて洗い始めることができる。さっきのクラブの例えでいうなら、パーティーが終わった!音が止まった!という次の瞬間、もうその床に敷いた布団の中にいるみたいな感じだろうか。

台所だからこそ、また、立っているからこそ、非常にコンパクトに、機敏に鍋のライブ感を満喫することができるのである。

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“よむ"お酒

パリッコ,スズキナオ
イースト・プレス
2019-11-17

この連載について

初回を読む
パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、...もっと読む

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