「強み」を徹底的に磨け! エディー・ジョーンズとジェイミー・ジョセフの戦術
2015年ワールドカップでは、オーストラリア出身のエディー・ジョーンズ率いる日本代表が、強豪南アフリカを破る大金星を挙げた。そして、今回の2019年大会では、ニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフ率いる日本代表が、悲願の決勝トーナメント進出を狙っている。
現日本代表を指揮するジェイミー・ジョセフは、1991年よりオールブラックスに選出され、1995年ワールドカップでは準優勝メンバーとなった。テストマッチの出場回数は20。その後に日本に移住し、1999年ワールドカップでは日本代表として出場している。
そんなジェイミー・ジョセフ率いる日本代表の強みとは何か。前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズのラグビーと、比較してみよう。2015年大会でエディー・ジョーンズが取り入れたのは、彼の出身地オーストラリア生まれの「シークエンス・ラグビー」という戦術だ。シークエンスとは、連続する動作の手順を意味する言葉だが、ラグビーにおいては、試合中にどんなプレーをするかを試合前から決めておくことをいう。具体的には、ボールの運びをどういう状態にするかをあらかじめ決めておき、試合でそのとおりの状況にもっていく。そこから、攻撃へと展開していくのだ。
エディー・ジョーンズが用いたのは、そうした手順重視の「シェイプ」と呼ばれる戦術だった。この戦術は、プレーヤー一人ひとりが決められたエリアに走り込むことでディフェンスを誘導し、スクラムハーフとスタンドオフが複数のパスコースを選択できるようにして相手のディフェンスを崩す攻撃である。相手からすると、マークすべきランナーが多いため、的が絞りにくく、ディフェンスが混乱しやすくなる。動きの敏捷性という、日本人の強みを活かした戦術だ。
一方、ジェイミー・ジョセフのラグビーもまた、日本人の敏捷性を活かしたラグビー戦術である。こちらが採用しているのは、「ポッド」と呼ばれる攻撃法だ。ちなみにこれはオールブラックスが得意とする攻撃法である。
オールブラックスに学んだ日本の攻撃
ポッドの特徴は、選手たちが担当するエリアを決めてしまうことだ。大概は、フィールドを縦長に四つぐらいのエリアに分ける。このエリアが細長い形なので「ポッド(=豆のさや)」と呼ばれているようだ。 従来のラグビーでは、タックル後のボールの争奪はフォワードの役割、ボールを運ぶのはバックスの役割と、プレーの内容で役割を分けているが、ポッドでは、あるエリアにボールが回ってきたら、そこを担当する選手がボールの処理を引き受ける
この戦術のメリットは、メンバー15人全員がフィールドの横幅全体に広がるため、相手も守備の幅を広げざるを得なくなる点だ。自分の担当エリアにボールが来たら、選手は守備の薄い別のエリアに2~3秒以内に展開する。そしてこの、相手ディフェンスをかいくぐってボールを素早く回すところに、日本人の敏捷さが活きるのである。
オールブラックスの攻撃では、自分がボールを持っているときに相手ディフェンスがタックルで止めに入っても、倒れる前に素早くパスを回すことで別のエリアの選手を前に出させている。そうした攻撃を繰り返していると、ディフェンスしている相手プレーヤーの配置に偏りが生まれる。そして、いくらか手薄になってきたところを目がけて、サイドへのロングパスから前に出て、一気にトライを取る。攻守ともに豊富な運動量でプレーすることを前提としたタフな戦術である。
こう見ると、ポッドという戦術は、もちろん敏捷性も必要だが、別エリアへボールを的確に受け渡すテクニックがいるし、相手ディフェンスにつかまった際には自力で持ちこたえなければならないため、パワーも必要となる。スピード・テクニック・パワーの三拍子が揃った、まさにオールブラックスのような熟練のチーム向けだとも言える。そして事実、オールブラックスは、このポッド戦術で世界の頂点に君臨し続けている。
ジェイミー・ジョセフ率いる日本代表は、どこまでこの戦術に磨きをかけ、自分たちの強みにできるか、2019年ワールドカップではぜひそこに注目したい。 敏捷性という日本の強みを活かすためには、攻守ともに、運動量で相手に勝たなければ、勝利は訪れない。今の日本代表には、かなりのハードワークが要求されるだろう。