美をさがし求めるのが生業である。
こんな、うつくしいものを見つけた。
糸と布によって自分の世界を紡ぎ出す刺繍アーティスト/デザイナーの業。
やりたいことや夢というのは、多くが「肩書」で語られる。
作家になりたい、編集者になりたい、歌手になりたい……。
メニューのように並べられた「肩書」のなかから、自分に向いているであろう職、または自分がなりたい職の一つを選択する。
「その職業に就く」というのは、あらかじめ用意された型に自分をあてはめ、行動していくという一面もある。
ところがここに、そうした枠をまったく気にせず歩む人がひとり。
「わたしがメインでやっているファッションはツールのひとつです。刺繍もしたいし、言葉も綴りたい。今年は、マンガが描きたい。」
という有本ゆみこさん。彼女の主な肩書は“ファッションデザイナー”である。自身のブランドSINA SUIENを展開している。
2018年暮れのNHK紅白歌合戦では、DAOKOの衣装を担当。繊細な刺繍入りのドレスがお茶の間の目を奪った。きゃりーぱみゅぱみゅや相対性理論のやくしまるえつこのライブ衣装を担当。広瀬すずや玉城ティナ、のんや中条あやみに山口智子など雑誌の撮影でスタイリングによる衣装も扱ってきた。
ファッションデザイナーとしてこれほどの実績があれば、その道を突き進んでもいいのではないか。そう思ってしまうが、彼女は刺繍家としてもマンガ家としても、精力的に活動を続けようとする。
刺繍家としては、2012年 Lamp harajukuのギャラリーにて 、『あまいおんな』展を開催。現代音楽家Rayonsとともに刺繍のライブも行った。
マンガ作品としては、言葉なしでストーリーを描いた『puddle』や、ancco、田中佐季、前田ひさえとのユニット“色ちゃん”による『色ちゃんコミック』などがある。
ファッションというジャンルを、軽々と越えていく
ジャンルをこれほど軽々と飛び越えられる人って、なかなかいない。
「そういえば人の表現に触れるときも、ジャンルは気にしませんね。マンガも映画もファッションも、全部フラットです。だから自分が何かするときも、それがどのジャンルに属するか? というのは気になりません」
メインの仕事たるファッションにおいても、彼女はいつも驚くようなテーマを設定する。
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