山内宏泰
米田知子「Rooms」——歴史の痕跡、見えますか?
週に一度のアート連載。今回は、今までとりあげた大きめの美術館での展示とは趣向を変えて、隅田川のほとりのギャラリースペースでの写真展示「Rooms」をご紹介。観光地に遠出してわいわいがやがやするのもいいですが、都内でのんびりアート鑑賞というのも検討してみてはいかがでしょうか? 米田さんの撮る端正な写真の数々に写しとられたさまざまな人の営みの痕跡をながめるうちに、時間がすぎているはずです。
こんにちは。暑さの盛りですね。むやみに外を歩き回るわけにもいきませんし、こんな時期こそ展覧会をゆっくり巡ってみるのがいいでしょう。今回はひとつ、気持ちがひんやりとする展示を観るのはいかがですか? 東京東部、隅田川のほとり、清澄白河にあるギャラリー「シュウゴアーツ」で開催中の米田知子「Rooms」です。
「気持ちがひんやり」とはいっても、なにも幽霊が描かれているとか、水辺の爽やかな光景が画面に展開されているといったことではありません。タイトルどおり室内の様子、それも多くは「壁」が画面を埋め尽くす写真作品です。それが 静謐 で端正で、対峙すればすっと背筋が伸びる感じがあり、しばらく眺めていると伸びた背筋のうえにある脳がはっと覚醒するような、不思議な感覚を味わわせてくれるものなのです。
米田知子は、1990年代から一貫して、写真を用いて作品をつくり続けてきたアーティストです。人にカメラを向けたポートレート作品はほんのわずかで、多くはどこかの風景やモノを被写体にしています。
彼女が選ぶ撮影地は世界各地にわたるのですが、一見さほど著名な場所とは思えません。むしろ漠として、とりたてて変哲のない場が大半です。それなのに、どの一枚の前に立っても、何が心に引っかかるのかつい見入ってしまう。不思議だと思いませんか?
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この連載について
山内宏泰
世に“アート・コンシェルジュ”を名乗る人物がいることを、ご存じでしょうか。アートのことはよく知らないけれどアートをもっと楽しんでみたい、という人のために、わかりやすい解説でアートの世界へ誘ってくれる、アート鑑賞のプロフェッショナルです...もっと読む
著者プロフィール
ライター。美術、写真、文芸その他について執筆。著書に『写真のフクシュウ 荒木経惟の言葉』(パイインターナショナル)『写真のフクシュウ 森山大道の言葉』(パイインターナショナル)『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)『写真のプロフェッショナル』(パイ インターナショナル)『G12 トーキョートップギャラリー』(東京地図出版)『彼女たち』(ぺりかん社)など。東京・代官山で毎月第一金曜日、写真について語るイベント「写真を読む夜」を開催中。東京・原宿のスペースvacantを中心に、日本写真を捉え直す「provoke project」開催中。
公式サイト:http://yamauchihiroyasu.jp/