歌と振り付けの力の入れどころは連動している
遠藤舞(以下、遠藤) ダンスは「こうしたら上手くなる」っていうのはなんかあるんですか?
竹中夏海(以下、竹中) あるある。私が大事だと思ってるのは緩急かな。
遠藤 緩急か!
竹中 動きの緩急って文字を例にすると分かりやすいと思ってて。ダンスって踊ったあと痕跡が残らないでしょ? でも字を書く行為って筆跡が残るじゃない。止めやハネがしっかりある文字が美しいのと、良いダンスも同じだと思うんだよね。
遠藤 なるほど!
竹中 筆圧ギチギチの文字って見てて疲れるじゃない。ダンスも一緒で“急”の前後には“緩”がないとキレって結局生まれないんだよね。
遠藤 うわー、めっちゃ分かりやすいしおもしろい!!
竹中 アップとダウンにしても、例えばアップする時には上がりながらグッと止めるイメージで、でもダウンではフッと力を抜きながら下がって、とか。
遠藤 わー、その力の抜きどころの説明、ちょっと真似してもいいですか?
竹中 全然いいよ(笑)。
遠藤 力の使い方の話は、歌ともすごい似ているなーと思いました。最初に声がなかなか出ない子って、実は押せ押せで何とかなるんですよ。でも逆に、はじめから声がよく出る子の方が、抜きどころが作れないので指導するのが難しかったんですよね。どうやって力を抜いたら振り幅が出て、それによってひとの心を揺さぶる歌になるのか、ということの理解になりそう。文字の例え、いただきます(笑)。
竹中 歌もダンスも同じ「表現」だから、通じるところは沢山あるよねー。
遠藤 それでいうと、アイドルって歌いながら踊ることがほとんどですけど、歌と振付の力の入れどころや抜きどころって連動してるんですかね?
竹中 私は振りを付ける時に歌いやすさはなるべく想定する。高音を出す時に手を上げる振りにしたら、「声が出やすいかなー?」とか。
遠藤 へぇー!
竹中 これに関してはアップアップガールズ(仮)の子たちに鍛えられたと思う。元々ボイトレをちゃんと受けてる子たちだったからこそ、最初の頃はきちんと歌わなきゃって思いが強すぎたのか、振りを付けても「これだと歌が歌えないです」ってすげぇ言われて。
遠藤 はー、それだと成立しないと。
竹中 だからといって全部を聞き入れてたら極論、踊らないのが一番良いってなるじゃない。
遠藤 歌だけを優先したらそうなりますよね。
竹中 そうそう。でもアイドルは歌いながら踊ってこその総合エンタメなわけだし、そこはもうお互いに譲歩できるところでがんばっていこう、って。私も歌いながらシミュレーションして振りは作ったり。
遠藤 具体的にはどんな工夫をされてるんですか?
竹中 ターンする時って体幹を引き上げながら回ってるでしょ。だから歌に影響しやすいだろうと思って、入れるタイミングはすごい選ぶ。サビ前の歌わない一瞬が「チャンス!」と思ってたり(笑)。あとソロパートの子は歌いやすさ優先で、みんなと振付を変えたりね。
遠藤 そうかそうか。
竹中 テレビとかライブ映像だと、どうしても歌っている子だけが抜かれることが多いでしょ。そういう時に歌いやすくて且つ、歌だけに集中してるんじゃなくダンスにも参加してるような見映えの振りを付ける。
遠藤 じゃあ紐解いていくと、「この振付はこのためにこうなってるんだな」っていうのがちゃんと分かるようになってるんですね。
竹中 そうそう。ハロー!プロジェクトのグループは、そういう生歌を成立させる為の振付に特化してて、本当によくできてるからすごいよ。ちゃんと踊ってるように見えて、実はパートの子だけは歌唱の邪魔にならないような振付になってたりとか。歌割が複雑でもいま誰が歌ってるのかが分かる工夫もされているし。
遠藤 そうなんですねぇ。
「ダンス」と「歌」、それぞれの先生が知りたいこと
竹中 逆にボイトレの先生の立場から「こういう振付は勘弁して〜」っていうのある? 例えばしゃがみながらだと歌いづらい、とか。
遠藤 さすがに寝っ転がりながらはきついですけど、正しい発声ができてると割とどんな態勢でも歌えちゃうものなんですよ。
竹中 正しい発声っていうのは具体的にはどんな指導をするの?
遠藤 みぞおちと骨盤の上の筋肉、両方を張って歌うっていうのをやってもらいますね。そこの力が全く使えてないと、喉で歌っちゃったり深いところから発声ができないんですよね。
竹中 なるほどなぁ。
遠藤 でも案外、人によっては前屈みの方が高い声を出しやすいってこともあるんですよ。
竹中 そうなんだ! 逆に反る方が声を出すのってきつい?
遠藤 反るのはきついかもしれないな。でも首が多少上に向いている分には大丈夫です。
竹中 跳ねながら歌うのはきついよね?
遠藤 ですね。跳ねるのは一番きついかもしれないです。
竹中 了解です!
遠藤 (笑)。サイドステップは全然大丈夫なんですけど、跳ねる系はね……。私がダンスあんまり得意じゃないのもあるかもしれないけど。
竹中 声を伸ばさなきゃいけない時に縦に跳ねる動きは無理だよね。それはやらないようにしてる。
遠藤 助かります(笑)。
竹中 不思議なのは、アイドルってこれだけ歌いながら踊るんだからボイトレとダンスレッスンを一緒に行っても良さそうなのものなのに、そういうケースってほとんどないよね。よくある合宿オーディションなんかでも、歌とダンスの時間で完全に分かれているし。
遠藤 たしかに、事前にボイトレとダンスの先生でミーティングができたら、より良いレッスンができそうですね。
竹中 うん。振付ありきのボイトレや、逆に私もボイトレの様子を見て「あ、ここでは無理させられなさそう」って把握しながら、振りを作ったりダンスレッスンをしたい。この対談記事を持って代々木アニメーション学院にプレゼンに行こう(笑)。
遠藤 そうしましょうか(笑)。
アイドルが利き手でマイクを持つ意味
竹中 代アニで思い出したんだけど、今年初めて=LOVEの振付を担当させてもらったんだけど。
遠藤 指原莉乃さんプロデュースの。
竹中 そうそう。その時に感動したのが、振り入れをしたその日の夜にはもう指原さんが動画をチェックしてくれて連絡をくれたんだけど、「歌うことも考慮されてて神としか言いようがないです」って来て。さらっと言ってるけど、動画を見ただけで歌うこと前提に振りを作ってることまで分かってくれる人なんて、今までプロデュースや運営サイドにいなかったから。あぁ、現役や元プレイヤーがアイドルの面倒をみると、こういう視点を持つ人が現れるんだなぁって感動した。