「モラハラ」は「モラル・ハラスメント」を略した言葉です。「モラル・ハラスメント」とは、言葉や態度で人の心を傷つける精神的暴力や嫌がらせのこと。近年、夫や妻が「モラハラ加害者」となって相手を傷つけ、離婚する夫婦が増えています。モラハラは密室で行われ、目に見えるキズを負わされることではないため、他人が気づくのには困難をきわめます。また、「モラハラ被害者」は、自分が〝被害者〟だと認識するまでに時間がかかったり、わからなかったりします。それほどモラハラ加害者は、巧妙かつ周到にジワジワと相手を攻めるのです。
モラハラ夫から見た貴女は妻ではなく「獲物」
元美さん(33歳)が、母親の聡子さんに付き添われて相談に訪れたのは、いまから2年以上前のことです。当時の元美さんは、青白い顔に痩せた体、声も弱々しく、いまにも倒れてしまいそうな印象でした。
「夫と離婚したいのですが、決断ができないのです。夫といると苦しいのですが、でも優しいときもあるんです」
「どんなとき苦しいと感じるのか、具体的に聞かせてもらえますか?」
「夫が気に入らないことや、嫌なことが起こると、すべて私が悪いと言われます。次から怒られないように、言われたとおりに気をつけても〝なんで僕の気持ちが読めないんだ〟と言って機嫌が悪くなったり、そのまま家を出ていったりして3日くらい帰ってこないこともあります。いつも、私のどこがいけないのか言ってくれないし、わからないんです。私が〝ごめんね〟と謝っても〝本気で悪いと思ってるなら普通は土下座するよね?〟と言われるので、いつも土下座をして謝ります。でも、なんか苦しくて……」
「それは苦しいですね。辛いですよね」
そう声をかけると、元美さんは泣きだしてしまいました。元美さんの隣に座るお母さんも泣いていました。
私は、ふたりが少し落ち着くのを待ってから、「どうしても辛かったら話題を変えますから言ってくださいね」とお伝えしましたが、元美さんは「大丈夫です」と、はじめよりもしっかりした声で答え、先ほどの続きを話しはじめました。
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