美をさがし求めるのが生業である。
こんな、うつくしいものを見つけた。
紆余曲折を経て、うたうことをイチから問い直すことでたどりついた、ひとりのシンガーソングライターの新たな歌声。
嘘のない歌をうたいたいから、いまのスタイルになった
北川けんいちは、すこし焦っていた。
この6月のこと。8月末に控えるライブまでに、新曲ふたつ用意することを自分に課した。
それがまだ、仕上がっていなかった。もちろん毎日つくる作業を続けているし、手応えを感じる音が浮かぶ瞬間もあるけれど、思った通りの曲がかたちを成すには至らない。
「頭に浮かんだフレーズはすぐにボイスメモを録るようにしていて、こないだの週末なんてメモが7つも8つも溜まったし、今日の朝は起きた瞬間にすぐ録りました。夢のなかでも歌つくっていること、けっこうあるんです。それなのに、なかなか曲としてまとまらない。
まあ、焦ってもしかたないんですけど。僕の場合いつだって生活のなかから曲が生まれて、それを歌ってきたので。いつも通りの暮らしをしながら、歌のことを考え続けるしか方法はないんですよね」
音楽をつくるやり方は以前から変わらないし、たぶん他のやり方はできない性分なのだと感じている。
2000年代を通して、彼はメジャーバンド「ロードオブメジャー」のボーカリストとしてフロントに立ち、曲づくりも中心になって進めていた。
ロードオブメジャーは、曲調も歌詞もきわめてストレートだった。そのまっすぐさが若い世代の胸に深く刺さり、人気は沸騰した。
が、やがて北川が曲を書けなくなったことも一因となって、バンドは5年間の活動を終えた。楽曲の提供を受けながら活動をしていく選択肢もあったけれど、それは受け入れ難かった。
「『これは自分の思っていることじゃない……』。他の人がつくった曲だと、どうしてもそういう部分が出てくるでしょう? それじゃ歌えないなと思った。社会人、仕事人としては、わがまま過ぎるのかもしれないけれど、そこは譲れなかったですね。それをしたら僕が歌う意味がなくなってしまう」
10代でバンドを始めてこのかた、音楽をやるうえで最重視していることは変わらない。