赤ちゃん連れに優しいアメリカの選挙運動

アメリカの大統領予備選挙を取材中の作家の渡辺由佳里さん。赤ちゃん連れで政治集会に来る多くの親を見かけた渡辺さんは、しばしば赤ちゃん連れへの不寛容が話題になる日本の課題について考えました。

赤ちゃん連れで電車や飛行機に乗る親(特に母親)に対して、「邪魔」、「めいわく」と感じる人の意見をときおり目にする。ソーシャルメディアでも繰り返し話題になるテーマだ。

それについて以前「電車の中での赤ちゃんの泣き声が許せないあなたへ」というコラムを書いたが、今回は現在アメリカで進行中の大統領選の予備選挙の集会で気づいたことをご紹介したい。


赤ちゃん連れが「ふつう」のアメリカの政治集会

次回の大統領選挙は2020年11月に行われるのだが、党の指名を争う予備選挙はすでに始まっている。トランプから大統領の座を奪うことを目指す民主党では20人以上の候補が名乗りを挙げ、予備選挙の皮切りになるアイオワ、ニューハンプシャーなどの重要な州で数々の政治集会を行っている。

選挙初期の集会は、日本のメディアでよく報道されるような大人数のものではなく、100人から500人程度の小規模なものだ。日本とは異なり候補と有権者が直接対話できるシステムなので、ご興味ある方はぜひ「2020年の米大統領選に向けた『選挙カーでの名前連呼』より有意義なアメリカの選挙運動のスタイル」をお読みいただきたい。

私はニューハンプシャー州で5月28日現在までに15人の候補のイベントに参加したのだが、そこであることに気づいた。それは、子連れの参加者が多いことだ。堂々とマイクを持って候補に質問する女子小学生もいたし、何時間も待って最前列に立ち、候補のスピーチに拍手する幼稚園か保育園くらいの年齢の姉弟もいた。

ほとんどの集会で赤ちゃんを連れた親を見かけたのだが、日本人にとってたぶん意外なのは、それが「ふつうの光景」だということだ。日常茶飯事なので、誰も邪魔者扱いしないし、過剰な特別扱いもしない。アメリカでは「赤ちゃんを抱っこして写真を撮るのは政治家の仕事のひとつ」とジョークになるほど当たり前になっているのだが、大統領選初期の政治集会に親が子供を連れて来るのは記念撮影のためではない。もっとまっとうな理由があるのだ。

ニュージャージー州選出の上院議員コリー・ブッカーのイベントで質問した女子小学生がバーニー・サンダースのイベントに来ていたので、話を聞いてみた。9歳のアレックスは民主主義の教育に熱心な母親の影響で幼いときから政治のニュースに触れており、歴代の大統領について書かれた児童書を読んだのをきっかけに「なるべく多くの大統領候補に会って質問する」という企画を立てた。

最も関心があるのは、メキシコ国境で不法移民の子供が親から引き離されている問題とトランプ大統領の元で脅かされている環境保護問題だという。これまで5人の候補に会い、コリー・ブッカーは素晴らしいと思ったものの、最も応援しているのはエリザベス・ウォーレンだという。その理由は「男ばかり。女に大統領になってほしい」というものだ。カマラ・ハリスにはまだ会っていないので、会えるのを楽しみにしているという。

なるべく多くの大統領候補に会って直接質問したいと語る9歳のアレックス

何時間も列を作って並び、そのうえで何時間も待たされる政治集会に子連れで来るのはもちろん簡単ではない。赤ちゃんの場合はもっと大変だ。赤ちゃんはお腹が空いたり、疲れたりしたら大人のように我慢はできない。だから泣いてそれを訴える。そういう面倒を覚悟で若い親が赤ちゃん連れでやってくるのは、自分にとって重要な問題についてそれぞれの候補者がどう考え、どんな政策を持っているのか確かめたいからだ。実際に会うと、主要メディアでは知ることができない候補者の真摯さもわかる。


到着して最初に子連れの有権者に挨拶するベト・オルーク


スピーチの後で、最前列にいた幼い姉弟の前にしゃがんで話をするカマラ・ハリス


ジョー・バイデンのイベントに来ていた消防団員のお父さんと赤ちゃん



バーニー・サンダースのイベントに来ていたヒッピースタイルのお母さんと娘

インディ書店で行われたカリフォルニア州選出のエリック・スワルウェル下院議員のイベントで私のすぐ隣にいた若いお母さんは、iPhoneで録画しながら障害児を援助する対策について質問した。たぶん、複数の候補で同じ質問をし、同じ問題を重視する仲間たちと共有し、比較しているのだろう。


エリック・スワルウェルに質問しながらiPhoneで録画する若いお母さん

高齢者がメディケア(高齢者と障害者向け公的医療保険制)に対する候補の姿勢を確かめるために杖をついてやってくるように、環境保護政策に対する厳しい質問をするために他の州の大学に通う若者がわざわざやってくるように、幼い子どもを持つ親も、他の有権者が尋ねてくれない質問をするために政治集会にやってくる。赤ちゃん連れが良い意味で「ふつう」に扱われているのは、それぞれが持っている「候補に会って話を聴く」という平等な有権者の権利を尊重しているからではないかと思った。

スワルウェルのイベントで赤ちゃんがぐずり始めたとき、スワルウェルは赤ちゃんに近寄って抱っこするような仕草をし、「こういうとき、(幼い子どもを持つ父親として)本能的にあやしたくなってしまう」と集まった人を笑わせ、その場をなごませた。スワルウェルへの質問を終えていた母親は赤ちゃんをあやしながら集団から離れ、周囲の人たちもこの母子に苛立ちの視線を向けることはなかった。


コンセンサスがなく、それぞれの常識が重視されてしまう日本
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アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む

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コメント

YukariWatanabe ついでにもう一度これも読んでほしい。 https://t.co/OMjhguGZ22 11ヶ月前 replyretweetfavorite

YukariWatanabe 16歳の環境保護活動家のグレタ・トゥーンベリさんと会ったオバマ大統領。😍オバマ大統領が懐かしすぎる😭 ここで会った9歳のアレックスが「お手本」として憧れているのが、グレタ。 https://t.co/OMjhguGZ22 https://t.co/z3LvZafCpZ 約1年前 replyretweetfavorite

nyabirins ああ、日本でもそう言う寛容な面をもっと広げられたら良いなあ、、 https://t.co/j0YmdUQzcj 1年以上前 replyretweetfavorite

pinkcrocs  比べると日本には「他人は自分とは違う」という視点が足りないよね~「よそはよそ うちはうち」とは言うくせに。 1年以上前 replyretweetfavorite