「ふざけるな、このやろう!」「落ち着いてください、武器を捨ててください」。席に座っていた不審者が突然、凶器を振り回す。現場に駆け付けた乗務員が盾を持って防戦する。
8月、JR東海は「不測の事態に対する現場の教育訓練」の様子を公開した。実際の新幹線車両を使ってのデモンストレーションには、乗務員や警備員のみならず、鉄道警察まで参加する力の入れようだ。
緊張感みなぎる実戦訓練(?)に合わせて、車両に用意されている防護品(防護盾、耐刃ベスト・手袋、刺又、防犯スプレー)も公開
新幹線の安全神話を崩す事件が相次いでいる。2015年には東海道新幹線の車内で男が焼身自殺を図り、火災が発生。今年6月には男が刃物を振り回す無差別殺人事件が起きた。1993年にのぞみ車内で覚せい剤常用者による刺殺事件が起きて以来の大惨事だ。
JR東海は焼身自殺事件を受けて、17年末までに全編成の9割に防犯カメラを設置したが、抑止力にはならず悲劇は繰り返された。
抜本的な保安対策として、手荷物検査の是非が問われている。欧州の一部でも検査が実施されているし、中国の高速鉄道では検査どころか身分証の提示まで求められる。JR東海は「乗客の利便性を損なう」(金子慎社長)ことを理由に検査をかたくなに拒否しており、導入の検討すらされていない。
確かに、JR東海の言い分は一面では正しい。利用者アンケートでも、半数以上が「検査を導入すべき」としながらも、その大半が許容できる検査時間は10分だ。
東海道新幹線の強みは、1編成で1300人を運べる大量輸送と定時運行だ。この強みを発揮させた効率運行は、乗客の便益であると同時にJR東海の利益の源泉でもある。検査の実施は、効率運行で稼ぐ新幹線のビジネスモデルを崩壊させるインパクトがあるのだ。
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