2008年公開の『アイアンマン』から10年。これまで合計21作に渡るスーパーヒーロー映画シリーズとして、ひとつの長大な物語を紡いできたマーベル・シネマティック・ユニバース(通称MCU)は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』をもって、ひとつの大きな区切りを迎えた。全宇宙のあらゆる生命を半分に減らすことで均衡を保つ、という独自の哲学を持つ最強の敵サノスは、インフィニティ・ストーンと呼ばれる石を手に入れることで、その狂気じみた計画を実行へと移してしまった。『アベンジャーズ/インフィティ・ウォー』('18)のラストシーンで、人びとは灰となって消え去り、アベンジャーズのメンバーもその多くが失われた。
あの絶望的なできごとから、スーパーヒーロー集団はどのように復活し、サノス征伐へと乗り出すのか。10年かけて、ようやく到着したMCUの締めくくりは、公開直後から社会現象化するほどの大ヒット作品となった。監督は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(’16)『アベンジャーズ/インフィティ・ウォー』('18)を手がけたルッソ兄弟。
MCUの作品群がもたらした最大の功績は、観客の想像力をつねに拡張しつづけた点にあるのではないか。「もしこの社会に本当にスーパーヒーローが存在したとすれば」をできるだけ現実的に追求した「リアル路線」が、MCUに新鮮さをもたらしていた。スーパーヒーローが本当にいたとすれば、彼らは普段どのようにふるまうのか。スーパーヒーローが存在した場合、現実ではいかなる軋轢が生じ、人びとはそれをどのように受容するのか。MCU第1作『アイアンマン』は、パワードスーツ(主人公が身にまとうロボットのような武器)の制作過程をていねいに描写する場面が特徴だ。
主人公が自分の手を動かして、少しずつ試作品を完成させていくシーンのユニークさ。テロリスト集団にとらえられたトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)が、ほら穴の中で手作りのパワードスーツを完成させ、いわば知性を武器に脱出を図る場面に、観客は快哉を叫んだものである。スーパーヒーロー映画が、このような興奮をもたらすとは! MCUのリアル路線は新しい作風であり、年齢を問わずに鑑賞できる見応えのある作品として浸透していった。
さらに驚くべきは後続の作品群であり、リアル路線にとどまらない想像力の飛躍を見せた。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(’14)では、70年代のソウルミュージックにあわせて踊る陽気な主人公が登場するが、このようなスーパーヒーロー映画は前例がなかった。また『アントマン』(’15)における、身長が1.5cmにまで縮んでしまった主人公や、極小の世界へ入り込むことで時間や空間の概念が変化してしまうという設定の驚きも忘れがたい。