SMAPと踊る小っちゃいおっさん
「次ですか! 次ですか!」
SMAPのライブをモニタリングしていたナインティナイン・矢部浩之が興奮して言った。そして“次”の曲「それが痛みでも」が流れ始めると、ジャニーズJr.がバックダンサーとしてステージに入ってきた。その中に、紛れ込んでいるひとりの男がいた。岡村隆史である。
ステージ上手に立った岡村とSMAPの距離は約30メートル。「思いっきり岡村隆史やん!」と矢部が笑う中、岡村はジャニーズJr.と歩調を合わせ、同じダンスを完璧に踊っている。
10代前半の少年たちの中に小っちゃいおっさん。
身長も同じくらい(むしろ小さい)で、ダンスのキレは遜色ない(いや、むしろ上回っている)。その違和感のなさが逆に猛烈な違和感として可笑しみに昇華している。
「ガチコン言わしたる!」
そんなことを言いながら、深夜まで懸命に練習した成果だった。
曲が「君色思い」に変わると、木村拓哉の後方という目立つ位置に場所を変え、調子に乗った岡村は「変なおじさん」や「ヒゲダンス」の振りを繰り出した。中居のソロ曲では、中居、プロのダンサー、岡村という3人で息の合ったダンスを完璧に踊り、ついには中居よりも前に出る。困惑する中居を尻目に「アホの坂田」の動きをするとたまらず中居が、岡村の帽子とズラをむしり取った。
会場は大歓声だった。
「どーもありがとうございました」と満足げに帰ってきた岡村に矢部が「感想を聞かせて」というと岡村は「最高!」と即答。「これからもジャニーズJr.としてやっていく」とさも当然のような口ぶりで言い放った。
これが、この後、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)の看板企画となる「岡村オファーがきました」シリーズの始まりである。
「もうこれはお笑い番組じゃない!」
当初、岡村はこの企画に乗り気ではなかった。本番直後も総監督の片岡飛鳥に「僕、こういうの二度とやりませんから」と宣言したほどだ【※1】。
ナインティナインはもともと、お笑い&ダンスユニット「吉本印天然素材」でアイドル的人気を得た。それはブレイクへの近道とはなったが、お笑い芸人として認められるのには逆に足かせとなった。
実力もないくせに若い女性にワーキャー言われているだけのアイドル芸人——。そんなイメージに苦しめられることになったのだ。だから、特別なオチもなく真剣に踊るだけ、というこの企画の面白さがわからなかったのだ。
それは片岡以外のスタッフも同じだった。連日夜中まで練習する姿を撮っていたカメラマンは、片岡にたまらず声を上げた。
「もうこれはお笑い番組じゃない! こんなに回す意味が分からない」【※2】
だが、片岡だけには確信があった。だから、片岡は「いいよ帰って、オレがやるよ」と自分でカメラを回し練習を続けさせたという。結果、この放送は片岡の思惑通り18.4%の高視聴率を獲得した。