酒場で出会った不快イ話

酒場ではいろんな人にでくわしまします。楽しい人ばかりならうれしいのですが、必ずしもそうもいかない。「のんのん」第9回は酒場で出会った、ある出来事についてパリッコさんが書いてくれています。
なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、ぬるーく書いていくリレーエッセイです。過去の連載へはこちらから。

深イイ話? 不快イ話?

「人生が変わる1分間の深イイ話」なんてTV番組がありますね。たった1分間の中にまとまるコンパクトさなのに、「うわ〜いい話だ!」と人生が変わるほど感動してしまうような名エピソードをたくさん紹介する内容なのでしょう。恥ずかしながら、自分はこの番組に関してはきちんと見たことがないので、正確に語れず申し訳ないのですが。

ところで今回は、僕が以前酒場で遭遇した「え? 最後当人たちどうしはいい話風にまとめちゃったけど、あとの全員不快なんですけど!」っていう、いわば「不快イ話」を、1分間とはいわずとも2、3分で読めるくらいのコラムにまとめてみようと思います。

平穏を切り裂く注文

あれは数年前の夏の午後。家の近所に割と早い時間から飲める焼鳥屋があり、僕はそこで一杯やっていました。そのお店は、テーブル席に炭火がセットされ、自分たちで焼鳥を焼くことができる地元の名物店。この情報だけでお店を特定できてしまった酒場通の方も多いかと思いますが、スルーしておいてください。

自分で焼鳥を焼けるとはいえ、テーブルはどちらかというと、グループ客や家族づれがわいわいと盛り上がりながら飲む席。それ以外にもカウンターが10席ほどあり、1〜2人のお客はそちらに着くことが多いです。僕もカウンターで飲んでいて、そちらの焼鳥は大将自らが焼き場で焼いてくれるシステム。ただ、この焼き場が割と狭く、カウンターの焼鳥は時間がかかってしまうこともしばしば。なのでまず先に串をまとめて何本か頼んでしまい、あとは煮込みやおしんこなどの一品料理をつまみながらのんびりと待つのが、ここでのうまいすごしかたといえるかもしれません。

幸い僕や数人の常連らしきお客さんたちはそういうことを知っていて、まだまだ明るい夏の日差し差し込む店内で、のんびりと飲んでおりました。

異変が起きたのはそれからしばらく後。カウンター席に、50代くらいと思われる夫婦またはカップル客がやってきました。どちらも全身に英語でメッセージが書かれた派手なジャージ上下を着た、いわゆる元ヤンタイプ。生ビールをふたつ頼み、乾杯して上機嫌に飲み始めました。僕は心の中で「うんうん、良い休日を」なんて語りかけると、再び自分の世界へ。

ところがすぐに、この平穏を切り裂く言葉を聞いてしまうことになります。

「オヤジ、とりあえずモモ2本ね!」

悪夢の始まり

あ、それだとけっこう待つかもな〜、もうちょっとまとめて、かつつなぎの一品料理も何か頼んでおいたほうがいいな〜、と思ったことは言うまでもありませんが、そんなおせっかいな言葉を初対面の僕がいきなりかけるのもどうか。それに、焼き場がスムーズに進行していて、意外とあっさり焼鳥が彼らのもとに届く可能性だってある。

もはや気が気じゃないというか、のんびりと飲んでいるというわけにはいかない状態に突入してしまいました。自分のお酒とつまみを平らげたら帰ってしまってもよかったんですが、よし、今日はふたりが無事焼鳥にありつけるまでは見届けることにしよう。「すいません、ホッピーセットおかわりで!」

ほんの少し、いや、かなりの好奇心も手伝い、新しく注文したホッピーを飲みつつ何気なく様子を見ていると、数分後、やはり僕の祈りも虚しく。

「焼鳥のモモ、通ってる?」

「今やってるよ」

言い忘れてましたがここのマスター、すごく人はいいし常連さんたちからも愛されているんですが、威勢のいいところがあり、こういうお客さんに対して引くなんてことはありえません。

また数分後。

「おせぇな〜、まだかよ?」

「順番にやってるんだから待ってろよ!」

はい、完全に始まってしまいましたね。

「ハァ? オヤジ、それが客に対する態度かよ!」

「うるせぇな、おめぇみたいなやつは客でもなんでもねぇよ。帰れ帰れ!」

「おいおい、この店は焼鳥1本で30分も40分も客を待たすのかよ!」

なんとか若い店員のお兄さんが間をとりもちますが、男性はどんどんエスカレート。もう最後のほうは、腹の底から出せる限りの大声を出してるって感じで、店内じゅう、いや、外を歩く人々に対して「この店で自分は迷惑をこうむっているぞ!」と主張しているかのよう。隣の女性も、たまに義務的に「やめなよ」って言うくくらいで、あとはけだるそうにタバコをふかしつつスマホを見たりしています。

我々の立場は……

そもそも、気分を害したならとっとと別の店に行けばいいのに、そして大将も、もっときっちり言って出てってもらったらいいのに、手もとでは忙しそうに焼鳥を焼き続けている様子。

そんな緊迫の状況が15分くらいは続いたでしょうか。なんと信じられないことに、そのお客さんたちの焼鳥が焼きあがってしまいました。

「ほら焼けたよ!」

「チッ……おう」

渡すんかい! 受け取るんかい! って話ですが、そのあとがさらに衝撃。男性が、確実に本日マックスを記録する大声で言います。

「オヤジィ〜〜〜〜〜!!!」

一言。

「……うまいよ」

もう店内全員、ズコーッ! ってなもんですよ。それを聞いて大将、「おう、そうかい、じゃあこれで仲直りだな」とか言ってるし。いやいやいや、けっこうな時間緊張状態を強いられた、我々他の客一同の立場は!?

以上、「え? 最後当人たちどうしはいい話風にまとめちゃったけど、あとの全員不快なんですけど!」っていう、酒場で出会った「不快イ話」でした。

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パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!

スズキナオ /パリッコ

なんだか気ぜわしい僕たちの毎日には、楽しくて、ちょっとホッとできる「お酒」が必要だ! 本連載はそんなお酒をこよなく愛するあまり、「酒の穴」というユニットを結成してしまったパリッコさんとスズキナオさんが、酒にまつわるアレコレをゆるーく、...もっと読む

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