漣野と南雲に伝授されたアイデアで枝折のBスタイル文庫も急上昇!?

【第28回】
新たに漣野と南雲が立ち上げた電子書籍専門の出版社と共同で販促をすることを提案された枝折。漣野たちのクラウド文庫と枝折のBスタイル文庫がタッグを組むことに。岩田のアドバイスで天敵の電子書店員・有馬に相談に行くと、有馬は漣野にある原稿を発注したいと言い出した。

文学少女が編集者として一人立ちしていく姿を追いながら、変貌する出版界の明日を占うお仕事小説!

◆圏外へのスイングバイ


 帰宅した枝折(しおり)は、弥生(やよい)を信州に誘い、今日の出来事を話した。

「へー、面白そうじゃないか。本気で売り込みたいんだったら、プレスリリースを送るんじゃなく、アポを取って訪問した方がいいな。大手出版社からの打診なら、きちんと話を聞いてくれるだろうし。
 ネットのメディアで販促に使えそうなリストは、私が就職活動をした時のものをやるよ。少し増減しているけど、基本的にはそのまま利用できるはずだ。
 それとせっかくのネタだ。枝折には、漣野(れんの)さんと南雲(なぐも)さんへの橋渡しをお願いしたい。二人にインタビューして記事を書きたいからな」

「ありがとう、弥生。すぐに段取りをつけるわ」

 信州の座敷席で、枝折はメールを書き、二人の予定を押さえた。


 翌日出社した枝折は、岩田(いわた)に南雲の件を報告した。

「なるほど。そういうカラクリだったのか」

「それで、クラウド文庫との共同キャンペーンの件ですが」

「おう、好きにやれ。責任は俺が取る。あと、ベンチマークとして有馬(ありま)さんに話を聞いておけ」

「げっ」

 思わず拒絶の声が出る。

「有馬さんは、とことんまで打ち合わせをする人だろう。あの人が乗り気になるまで話を詰めれば、大抵どこでもOKしてくれる」

「あの人、空気を読まずに議論してくるじゃないですか。毎回、納豆とオクラとめかぶを混ぜたような、ねちっこい嫌みを散々言われますし」

「ごちゃごちゃ言わずにアポを取って行ってこい」

 岩田は追い立てるように言う。

 なぜ天敵の有馬のもとに行かなければならないのだ。枝折は納得のいかないままメールを送り、夕方から会う約束を取り付けた。


 渋谷にあるバーンネットのオフィスの会議室に入った。

「面白いですね」

 開口一番、珍しく有馬が好意的な台詞を言った。雹でも降るのではないか。片眉を上げて、警戒の姿勢を取る。

「作家連合のミニ出版社と、大手出版社のコラボレーションですか。漣野久遠(くおん)なら、炎上だけでなく、そのうちなにかやってくれると思っていましたよ。彼はネットの事情に明るい人間のようですからね」

 有馬は、にこやかに言う。

「どうせ販促をするなら、投票ページを作りましょう。読んだ人が、Bスタイル文庫とクラウド文庫の本に投票できるページです。
 仕組みはこうです。投票者は、一から十点を選ぶことができる。集計ページでは投票人数を伏せて、Bスタイル文庫とクラウド文庫それぞれの合計点だけを表示する。
 こうすれば、低い点をつけても高い点をつけても点数が増えるだけです。ポジティブな結果だけがユーザーに示されます。

 また、本が購入された時点で、購入ボーナスの十点が入るようにします。その上で、二つの文庫で人気のある本をランキング形式で発表します。
 システムは、既存のプログラムに追加のコードを書けば一日で作れます。二つのレーベルの本を立ち読みできる専用ページも作りましょう。ついでに、岩田さんと春日さん、漣野さんと南雲さんのインタビューページも用意します。ラインナップの各本にも、著者のコメントをもらいたいのですができますか」

 有馬は次々とアイデアを挙げていく。

 なるほど、岩田が最初に有馬のもとに行けと言った理由が分かった。定例会のたびに大量のクレームを持ってくるということは、それだけアイデアマンということなのだ。そして、有馬が出した案で、他の書店でも使えるものを持って行けば、話がスムーズに進むことになる。

「漣野さんと南雲さんには、こちらから連絡を入れます」

「よろしくお願いします。それと漣野さんに、BNB向けの専売企画でお願いがあるんですが」

「なんですか」

「彼、原稿は書いていますか」

「いえ、まだですね」

「執筆するという約束はしていますが、原稿は影も形もないですよね。ですから、今から提案する原稿を書いてもらおうと思うんですよ」

「どんな原稿ですか」

「炎上からの復活。ノンフィクションです。短編で構わないですよ。あれだけネットを騒がせたんです。彼はどこかで禊ぎをしなければなりません。どうせなら、うちのサイト上でしてもらいます。
 原稿料はうちで払いますよ。そしてサイト上で無料で公開します。バーンネットブックスのアカウントを持っていれば、誰でも読めるようにします」

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#電書ハック

柳井政和

小説が好きで出版社に就職した春日枝折だったが、配属されたのは電子書籍編集部。 紙の本から戦力外通告を受けた老作家、ネット民には刺さる準引きこもり作家、紙の本には目もくれないデジタル電子書店員たちとの出会いに戸惑う枝折。 やがて作家たち...もっと読む

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