シンボリックなPechatのデザイン。
2016年3月、monom(モノム)としては2度目のサウス・バイ・サウスウエストで発表したのが、「Pechat」でした。
当時は3つのチームに分かれて、商品開発の検討を推し進めていました。「Pechat」は、そのうちのひとつのチームをきっかけにアイデアが生まれました。
なかなかアイデアが出てこなかったのですが、ちょうどメンバーのなかに子育て中の人がいて、「親子」というテーマが出てきたことがヒントになりました。
詳しくは、STAGE2の第1回「なぜ広告会社がモノづくりをするのか。」でもご紹介しましたが、正月休みに母の故郷の徳島で思いついたものを企画書にして、年明け最初のミーティングで「これはやろう!」と言って、やることにしたのです。
その前年、初めて参加したサウス・バイ・サウスウエストで、博報堂DYグループの会社でウェブやデジタル系の広告企画制作などを行っている博報堂アイ・スタジオのメンバーと出会っていました。
彼らは、新しい技術を使ってサービスや商品を開発するプロジェクトチームをつくっていたので、それを思い出して、彼らと共同で企画・開発を行うことになりました。
「Pechat」のボタン型のデザインは、実は企画の時点ですでに浮かんでいました。
シンボリックなボタン型デザインのPechat
かたちを考えるとき、僕は、広告的な視点とプロダクト的な視点の両方を意識するのですが、広告的な視点でいえば、シンボリックである、ということが重要です。
それこそ「Pechat」という名前を覚えてもらえなくても、「あの黄色いボタンの」と言えば、通じてしまう。
「ぬいぐるみをしゃべらせるボタン」とまでは、人は言わないものです。でも、黄色いボタンというだけで、「あれだよね」という共通言語になっていくのです。
先に紹介した、iPodの白いイヤホンに近いと考えるといいかもしれません。
一方でプロダクト的な視点でいうと、生活にちゃんと馴染む必要がある。そうした意識を僕は強く持っていました。
例えば、あからさまにスピーカーみたいなものだと、機械のようなものがぬいぐるみについていて興ざめしてしまう。
その点、ボタン型というのは、縫う、というところでもつながっていて、ぬいぐるみと相性がいいわけです。
色の黄色は、これもシンボル性です。いろんな色を展開する方法もありましたが、1色、シンボルとしての色を決めるというのは、マーケティングとしては常套手段だったりします。
そのとき、男の子でも女の子でもなくニュートラルで、かつ、ちょっと温かい感じということで黄色にしました。実際にはほんの少しだけオレンジを入れています。
先に、「遠い未来のドラえもんをつくる」というイメージが僕のなかにあったという話を書きましたが、ドラえもんはもともと黄色だったそうです。それも、この開発ストーリーに付け足して話すことがあります。
これだ!と思ったら前しか見ない。
「Pechat」は、アイデアが浮かんだときに「これだ!」と思って、すぐに進めることを考えました。
サウス・バイ・サウスウエストは3月でしたが、このときはすでに1月。
博報堂アイ・スタジオのメンバーには、最初、スケジュール的に難しいと言われましたが、「いや、できるよ! やりましょう!」と無理を言ってお願いしました。
そのため、3月の発表のときにつくったコンセプトムービーで見せたのは、本物ではなくダミーで、音も後から足したものでした。
ただ、ムービーはやはり大事でした。実際の体験がイメージできるからです。
アメリカで、まず大きな反響を得ました。それから、日本でもニュースリリースを出しました。
同じく話題になったにしても、「iDoll」(アイドール)がどちらかというとオタク層で話題になったのに対し、「Pechat」は一般のお父さん、お母さんの間で話題になりました。
そしてなにより大きく違ったのは、価格です。最終的に「Pechat」は5000円を切る価格になりました。
第1弾、第2弾が価格で悩まされたので、とにかく安くできるもので新しいものをつくろう、初期投資が少なくて単価の小さなものをやろう、と考えていたのです。
そうでないと、モノづくりをやったことのない博報堂にとって、最初のチャレンジとしてはハードルが高すぎると僕は感じていました。
「Pechat」は発売元:(株)博報堂として販売されましたが、僕はこの「発売元:(株)博報堂」に強くこだわっていました。
世の中の人にとっては、メーカーがつくろうが、博報堂がつくろうが、あまり関係ないかもしれません。しかし、「発売元:(株)博報堂」というのは、社内に対して、博報堂がモノづくりをやるのだ、やっていいんだというメッセージになると考えたのです。
経営会議にもかけられましたが、上層部でも発売元を外部に出す話はあったようです。しかし一方で、博報堂として出したほうがいいのではないか、という応援の声もあったと聞きました。
誰よりも考えること、それが基本。
実は販売するとき、「博報堂として初の」と書きたかったのですが、120年の歴史のなかで、戦前にボードゲームのようなものを販売したことがあったそうで、残念ながら「初の商品」とはうたえませんでした。ただ、初のデジタル製品だったことは確かです。
こうして2016年12月、発売元:(株)博報堂としての初めてのデジタル製品「Pechat」は発売されました。
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