[前編]東京の僕たちも、実は被災していたんだ
自宅兼仕事場での小沢さんと妹尾さん。
——震災当時を振り返ってどうですか?
小沢 「311の東京編」の中で、保育園の耐震補強、建替え問題を話し合う保護者会のエピソードがあるんですが、それが建物の外まで怒鳴り声が聞こえるくらい、めちゃくちゃ紛糾したんです。
——あのシーン!恐ろしいほどギスギスしてました。
小沢 あれって、描いた後に分かったんですけど、おそらく震災のストレスがあったから、あそこまでヒートアップしちゃったんだと思うんです。積もり積もったものが横にぶつかっちゃったっていう。
——そうかなるほど、そう思って読むとすごく腑に落ちます。
小沢 今になって考えると、東京に住んでいた僕たちも、実は被災していたんですよね。最近やっとそんな風に思います。
——本震も経験したことのない揺れでしたし、余震もありましたしね。
小沢 テレビから流れてくる東北の光景を見て、親戚や友人の状況を思って、自分たちも辛いとはなかなか言えなかったんです。でも、よく考えたら、寝るときに枕元に靴置いて服を着て寝るって、全然普通じゃ無いですよ。
——緊張状態での生活がしばらく続きました。
小沢 実際それで子供を連れて東京から出て行った、移住した人たちも、まわりに何人もいました。
——それに比べてお二人は、タフに淡々と乗り越えていかれたような印象ですが。
小沢 こっちの店はオムツが買いやすいとか、あっちのスーパーは入荷が午後2時だとか、非常時のノウハウがが溜まってくると、それはそれでちょっとサバイバルとして楽しめてる部分もあったんですけど…それでもやっぱり自分もストレス状態だ、と気がついた事件があって。
——なにがあったんですか?
小沢 地震の1週間か2週間後位かな、新宿の伊勢丹の地下に行ったら、すごいいつも通り物があったんです。値段は高いけど、しばらく近所のスーパーで見れなかった類の生鮮食品が、山のように盛られていたんです。
——ひえー、さすが伊勢丹。
小沢 しかも物凄くきれいなディスプレイで、その中の、アスパラガスが土の上に何本も立ってるディスプレイ見た時に、ちょっと泣きそうになった。あのアスパラガスが忘れられないです。
——アスパラガス見て泣く!
小沢 うん、アスパラガスで泣けた。 「ああ、俺ストレス感じてたんだこの状況に」っていうのがはじめて自覚できたのは、伊勢丹でしたね。
これは確かに泣ける気がしてきました。
——東京でも水の汚染問題があって、オムツや粉ミルクが品薄になって、乳児を抱えていた家庭はどこも大変でした。
小沢 余震もしばらく続いてましたし、実際、公園で遊んでる子供がすごく減ってましたよね。けどうちは、意識して外に出るようにしてました。なんやかんや、散歩に連れ出して。
——放射能は気にせずに?
小沢 なんかちょっとやばいらしい?って言うそのリスクと、家に閉じこもってるストレスのリスクっていうの比べて考えて、えーい出ちゃえ!って。震災直後はまだ、放射能の話がどれぐらい危ないのか危なくないのか、本当は分からなかったんですけどね。
——小沢さんは子供の頃にガイガーカウンターで遊んでたって聞いたことがありますが
小沢 ええ、高校生の頃ですね。理系だったんで先生が教えてくれて、一応。
——昔取った杵柄で、計測して回ったりはしなかったんですか?
小沢 高校生の時にいろいろ試した経験から、計測のスキルが無い素人が測っても精度が悪いっていうのを知ってたんですよ。
——え、測るの難しいんですかあれ。
小沢 はい。なので、簡易な自作キットのガイガーカウンターは持っていたんですけど、オモチャみたいなもので、公園や散歩に持って行っていちいち安全確認に使ったりはしなかったです。
——お子さんたちについて心配されたことってありますか?
小沢 0歳と3歳で小さかったから、親が落ち着いてさえいれば、子供はそれほどストレス抱えないで済むかなと思ってました。
——成長された今はどうですか?
小沢 今の歳(8歳、10歳)であれば、オムツやミルクの心配はないけど、東北の親戚のこととか、いろんなことが分かっちゃうから逆に辛かったかもしれません。それはそれで別の悩みがあったかも。
——お子さんが一人で出歩く年齢になっていると、その点での心配も増えますよね。
小沢 そうですね。うちは、安否確認のために家族全員GPSで現在地共有しています。上の子はもうそこそこ大きいので、学校に行ってる時以外は基本スマホ持たせてます。本当は、学校にも持たせていきたいのですが。
——夫婦間のGPS共有というのは、多くの人にとっては最大の壁かもしれません(笑)
小沢 ああ、それはありそうですね。うちはずいぶん前から共有してますけど、便利ですよ?子供がグズってなかなか帰って来ない時に「まだ公園か」とか分かるし。
——そういう時はLINEに気づけなかったりしますもんね。
小沢 下の子はまだちょっとスマホ使うには、落としたり失くしたりというリスクが高そうなので、腕時計型の電話を使ってます。GPSの誤差が少ないので気に入ってます。
画面が小さくて老眼にはしんどい!と、設定は若手スタッフにお願いしたとか。
インタビュー後編は、もしもの時の「冷静さ」を保つためのヒントがざくざく。
後編(3月15日金曜 公開)へつづく>>
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