やたらと見いだし力の高い日本人
日本には欧米圏では翻訳しにくい独特の美意識が数多く存在します。たとえば、人為的ではない自然な経年変化、古くなったりコケが生えたり、老いて枯れた「さび」に対して、それを美しいと思う心を「わび」と呼びます。古臭い、と一言で切り捨ててしまうことはできますが、そこに情緒や風情を見出して楽しむ感覚がこの国では根付いています。千利休の時代から、日本人はほころびに愛らしさを感じて慈しむような「見いだし力」が妙に高いのです。そしてこの能力こそ、現在まで日本にアイドルが多い理由ではないでしょうか。
基本的に実力至上主義である欧米や中韓台の音楽シーンに対し、なぜ日本では歌もダンスも発展途上のアイドルがもてはやされるのか、という議論は度々起こります。しかし、果たして日本人は本当に稚拙なものが好きなだけなのでしょうか。実はこれにも「見いだし力」が大きく関係している気がしてなりません。たとえて言うなら、盆栽を愛でる感覚に近いのではないかと思います。
はじめから完成されているものではなく、施肥や剪定、針金掛けなど手間と時間を掛けて変化していく様を楽しむことは、どこかアイドルを応援する感覚と似ています。K-POPアイドルの人気がこれだけ定着した現在でも、鍛練を重ねたのちに完成度の高い状態でデビューすることを逆に物足りなく感じてしまう日本のアイドルファンが未だに多いのは、この見いだし力を持て余してしまうからかもしれません。
また、国によってそもそもの「美しい」と感じる基準の違いも非常に興味深いです。たとえば、西洋庭園は規律のとれた幾何学的でシンメトリーな形態なのに対し、日本庭園は左右非対称の不規則な形で、なるべく人の手が加わっていてると感じさせないように作られていることが特徴的です。
もっと身近な例でいうなら、欧米では歯並びは綺麗なら綺麗なほど良しとされていて、八重歯にいたってはドラキュラなどを連想させるという理由からも忌み嫌われているのですが、日本だと途端にチャームポイントになります。比較的価値観が近い東アジアでも、韓国や台湾では八重歯を可愛いとは思わないそうで、中国ではむしろ不吉な迷信が数々あり敬遠されていると言います。
庭園や歯並びだけをみても、これだけ美意識の差異があるのです。音楽シーンにまで影響を与えていてもなんら不思議はないでしょう。そして世界的に見ても日本は「必要以上に手を加えないこと」「自然体であること」に価値を置き、敏感であるという特徴があります。見いだし力の高い日本人にとって、成長過程を見守りながら応援できるアイドルは、盆栽と同じくらい食い合わせが良かったのです。
「難易度の高いことでも涼しい顔をして、さらりとやってのける美学」
日本式のアイドルが成長を楽しむコンテンツだとすれば、メンバーは切磋琢磨しいつしか洗練されていきます。デビュー当初から応援してきたファンにとってその姿は誇らしくもあり、どこか淋しいと感じることも少なくありません。自分の手を離れひとり立ちしてしまったように思い、「一人前になるまでを見守るのが醍醐味」と言うアイドルファンも多いです。そのため女性グループはデビューしたてよりも、経験値を積んだ中堅どころになってからの方が、活動の維持が難しいのが現状です。