信号が青になるのを待っていた。私は、たった数十秒の待ち時間すら退屈に耐えられなくて、Twitterの画面をスクロールしていた。
ドンッ。
聞いたことのない鈍い音。その一瞬で、空気が軋んだ。こういう時、人は頭より先に肌で異常を察するらしい。「なんてことするの……!!」と叫ぶ声が聞こえる。人混みをかき分け、違和感の発端を探すように視線を動かす。喧騒を整理しようと頭の中が混乱していた。
車、倒れた少女、泣き叫ぶおばあさん。
女の子が乗用車に轢かれた——ようだ。
流血はない。命に別状はなさそうに見えたが、実際はどうかわからない。ふくらはぎにタイヤの跡らしきものがついていた。少女の意識はなく、ぐったりとしていた。
1秒がゆっくり進む。目の前で起きた緊急事態に「どうしよう」という雰囲気が場を包んだ。
しかし次の瞬間、私は顔を歪めてしまった。
みんな歩いていくのだ。一瞥して、進む。幅が20メートルくらいありそうな横断歩道には、それなりに人がいた。けれども多くの人が、その場を理解した瞬間、全く違う世界の人間のように歩みだしていたのだ。
え?
青信号は交通事故が起ころうともすぐに赤信号になり、車はまた走る。確かに人はそれぞれ生活があり、急がなくてはいけないときもある。大勢が騒いだところで少女が轢かれたという現実は変わるわけもなく、彼女の意識が戻るわけでもない。けれども、とてつもなく静かに自分の時間を取り戻す通行人がそこにはいて、私には信じられなかった。二重に混乱してクラクラする。
何なんだよ。
怒りと疑問とよくわからない感情が湧いたが、力ずくで脳のモードを変えた。精一杯、冷静さを保つ。今、自分がすべきことをあらいだす。