ファミレスで見かけたとある家族に、「ゾッとした」
母親の話や子どものころの話を何回か書き続けてきたので、そろそろ、いったん締めたい。
次は、そうやって産まれて育ったヒトシが童貞を失ったりAV男優になっていったりした過程が書きたいし、その前に、いろんな方と対談させていただいて【女と男】【男性性と女性性】【セックス】【男のファイナル・オーガズム】といった話題について意見を交換したりしたいので、とりあえず締めの原稿を書いてしまおう、とパソコンを持ってファミレスに入ったら、すぐ隣りの席に、小学2年生か3年生くらいの男の子をずっとどついている父親らしい関西弁のおっさんと、男の子の母親らしいねえちゃんと、母親の母親らしいおばはんがいた。
おっさんは口髭を生やして服装もぴしっとしているが、まだ30代だろう。どついているといってもブン殴ったり蹴ったりしてるわけではないのだが、5分に1回くらい手をだして、男の子の頭や頬を、こづいたり、はたいたりしている。そして、なにしろずっと「コラなめとんのか」「なんぞ言うてみい」などと、やくざのような口調で男の子を叱り続けている。
最初その父親の声だけが聞こえて、僕は(おっケンカか)と思ってそっちを見たのだ。
男の子は、こづかれて叱られながら、やや卑屈そうな目で父親を見上げて、ずっとニヤニヤしている。
僕が驚いたのは母親と祖母の態度で、父親を、まったくたしなめないのである。この家族にとって日常なのだろう。関西弁ではなく東京のことばで世間話をしている。まあまあ良い身なりをしている。父親も、祖母つまり自分の義母に対しては「おかあさん、いかがですか?」などと敬語である。子どもも泣いたりはしていない。つまり、この家族は一見【すさんでいる】わけではない。
なるほど。こうして男性性(インチキの)というものが作り出されていくわけか。
僕は、こういうのを見ていて、いやなかんじがする。たとえばこの親たちのような人たちのことを称して『恋とセックスで幸せになる秘密』(イースト・プレス)や『すべてはモテるためである』(文庫ぎんが堂)に【インチキ自己肯定】ということを書いたのではなかったか。
もし自分がこの家庭に息子として産まれていたらと考えると、ゾッとする。
ゾッとはするけれど、思わず立ち上がってその父親の胸ぐらを摑んで「いいかげんにしろ!」とすごむ、といった行動に出ることはない。たぶんケンカしたら負けるから。
それも、どうなんだ。
中途半端な反応なのは、この男の子を見て「彼は、俺だ」というふうには思わないからかもしれない。僕は、子どものころ彼のような目には、あわなかった。
ヒトシの幼少期は『ガープの世界』の世界だった
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