パン屋ですが、パン屋だけではないのが「わざわざ」です。
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人間が人間を正当に評価できるはずがない
店を始めてから、一番嫌な仕事だったのが人事だった。時給を上げたり、ポジションを上げたり変更したり。元来人付き合いが苦手なのに、人のことで頭がいっぱいになると辛くてたまらなかった。本当はもっと直接的に店をよくするためにできること、たとえば、仕入れを変えたり、パンの製造量を増やしたりをしたいのに、人を雇うと仕事の中心が人事や人材マネジメントになっていく。
起業してからというもの、長い間、これを解決したいとずっと試行錯誤していたのだった。大体、人事評価なんて好き嫌い以外の何者でもないと思う。よい学歴、見た目、気が合うか合わないか。仕事ができるってどういうことだ? 利益を出すけど人と軋轢を起こすような人間が「できる」評価なんて間違っている。
人間を正当に評価する方法を考えるなんて面白くもなんともない。人事評価を一切しないで事業が回るしくみを考えたらいい。そして、わざわざらしい評価軸を求めてたどり着いたのが、人事部という概念を組織から消し去った「評価しない人事制度」だった。
「評価しない人事制度」は「相思相愛採用」の元に成り立っている。「相思相愛採用」はお互いに好きなら一緒にやりましょうという、文字通りお互いが一緒に働きたいかを判定する採用法だ。
「わざわざ」では自費出版した『わざわざの働きかた』という本を必ず読んで感想文を添付して、採用プログラムに応募しなければならない。その後、選考を経て「しごと体験プログラム」というものがあり、希望する部署でスタッフと共に1日仕事を体験する。
その後の最終面接で、応募者は拒否権を行使することができる。「1日働いてみてどうでしたか? 今でもわざわざで働きたいと思いますか?」と必ず問われる。「やはりイメージと違ったので辞退したい」ということであればそれでいい。そこでお互いが一緒に働きたいとなった場合のみ採用される。これがまず相思相愛採用である。
評価しない人事制度とは?
「問い=TOI.」と「解=KAI.」のセットで図を作ってみたので見てほしい。事業は常に問いからの解で動いていく。いつも問い続けることが大事であるし、解をそれなりのスピードで出し実行していかねばならない。まず「問いを立てる」こと。人間においても、事業においても問いのないものに成長はないのだ。
まず、人間が人間を正当に評価できるもわけがないという大前提を作り、評価そのものをしないしくみがこの図になる。平たく言えば採用されてから2年が経過すると、新卒もベテランも全員給料が一緒になってしまうという制度だ。それが嫌な人は応募しなければいい。わざわざの理念にフィットしていないということになる。
ちなみにリーダーへの立候補権は所定の期間を経て得られて、リーダーに承認されると2万円が給料に加算される。他部署のリーダーへの立候補もできて、兼任の場合、支給額が半額になっていく。1部署のリーダーは2万円、同じ人が他の部署のリーダーを兼任する場合は1万円と段々と下がっていく。兼務すれば力が分散されるという考え方になる。
わざわざでは「仕事ができる」という定義づけを一切しない。商品の梱包、出荷業務などのルーティンワークも、営業も企画もそれぞれないと仕事が成立しないとなれば、全員が必要な人材ということになる。必要不可欠な人材なのだから、パンを袋詰する人も企画を立てて注文をとる人も、システムを作る人も一緒の給料でいいのだ。部署もできるだけ希望通りのところに配置した。そして、性格も年齢も様々な人が同じ給料をもらう。それがとてもいい。仕事に優劣はないのだ。
というシステムを考えたのが2017年だったのだけど、それから一年。様々な経験を経て、単純に給料を一律にして部署に配置するだけだとよくない結果が出ることがわかった。適材適所をきちんとやるしくみが他にいる。本人が自己の適性を見誤っていることがあり、希望部署に配置していくと、事業そのものがうまく回らなくなるケースが出てきたのだった。
自分という人間を知っているか?
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