女の友情はお金によって引き裂かれるか?

独身、既婚、子持ち、子なし、お金持ち、貧乏、美人、不美人…。ちょっとの「違い」ゆえに、時々ぶつかる私たち。それでも、男には絶対に見出せないものが、女の友情にはあるーー。

「女友だち」の新しいカタチを描く北原みのりさんのエッセイ『メロスのようには走らない。〜女の友情論〜』を特別公開します。

 林真理子さんが『野心のすすめ』の中で、こんなことを書かれていた。

「人は年を取るのに比例して、残酷なまでに格差という現実を突き付けられるようになります。それは、ときに友情さえ引き裂くことがある」

 たとえばそれは。若い時に共に貧乏旅行した仲閒でも、中年になって一緒にニューヨークに行こうっ!となった時、一人がビジネスクラスに慣れてしまった身で、一人がエコノミー以外選べない経済状況だったとしたら......と、林さんは例に出す。搭乗口で二人は気まずくなるだろうし、ビジネスクラス派がエコノミー派に合わせるのは厳しいものがある、と。「仲が良かったはずの友人とでさえ、年を取るごとに広がる格差とは、かくも容赦ないのです」と。

 悲しい話です......。

 では、実際どうなのだろう。エコノミークラスとビジネスクラスの間に、女の友情は成立しないのだろうか。お金の問題は、女の友情にどのように〝影を落とす〞のだろうか。

男にビジネスクラス買ってもらうなんて!

 もう10年以上前の話だけれど、ヨーロッパ行きの飛行機で、偶然友人と一緒になったことがあった。彼女がビジネスクラスにチェックインしているのを、エコノミークラスに並んでいた私が見つけたのだった。慣れた様子でビジネスクラスにチェックインするスガワラさんは、私よりも確か少しだけ年下だったと思う。私と同じように20代で会社を興し、輸入雑貨の仕入れなどでヨーロッパへちょくちょく通っているのは知っていた。

 ビジネスクラスチケットを持つスガワラさんに、少なからず私がショックを受けたのは事実だ。なぜなら、当時の私にはビジネスクラスに乗る、という発想がそもそもなかったから。お互い20代で、女。舐められながらも、互いにがんばろうね、小さな会社だけど、続けようね、って言い合ってたのに、それなのに......ああスガワラさんは稼いでいるのだ、ビジネスクラスに乗れるほど稼いでいるのだっ!すごすぎるよスガワラさん、エライよスガワラさん......と思った瞬間、スガワラさんの隣にオジサンを発見したのだった。おーっと!雰囲気からすると、どうやら年上の彼氏、のようだった。

 一転、私はスガワラさんへの考えが改まった。なんだよスガワラさん、パトロンかよ、ビジネスクラス買ってもらったのかよ、そりゃそうだよな、会社興して数年で、ビジネスクラス乗れるほど稼げるはずがないよな、なんだなーんだ、あ〜、男か、男ね、そーよねぇ......。

 友だちがビジネスクラスにいる、というだけで、私のこの心の忙しさときたら......。同じようにがんばっていると思っていた友だちが、自分よりも先に歩んでいたと思った時の焦り、しかし男がいると分かった時の安堵と小さな軽蔑。もう分かりやすいほど、私は友だちのビジネスクラスに、動揺していたのだった。

 あの日、同じ飛行機でヨーロッパに着いた時、ビジネスクラスで先に降りたスガワラさんは、私を出口で待っていてくれた。

「彼氏なの」と、リッチそうな彼氏も紹介してくれた。

「出張?お互い仕事、がんばろうね!」

 スガワラさんはにこやかな感じで手を振って、私たちは空港で別れた。

 それがスガワラさんと私の、しばしの別れのきっかけになってしまったのは、ただただ私の小ささと偏見ゆえだ。当時私たちは特別に親しかったというわけではないけれど、そして恐らくスガワラさんは私への距離を変えていなかったと思うのだけれど、私のほうがスガワラさんへの態度を変えたのだ。男のパトロンがいるのだ、と勝手に思い込んだ私は、スガワラさんとの距離を広げた。

 私にとって、働く女には二種類いたのだと思う。頼りになる男の経済があるか、ないか。「ある女」に対して、20代の私はとても冷たかった。

女は女の”選択”に厳しい

 それから10年ほど経った頃、何かのきっかけでスガワラさんと会う機会があった。私は思い出話として、10年前の成田空港の話をした。私は、スガワラさんがビジネスクラスに乗っていて、凄いなぁって焦ったのよ、そういえばあの時の彼氏はどうしたの?とかそういうような感じで。スガワラさんはあの時のことをよく覚えていた。

「そうそうあの時、私のマイレージが貯まったからビジネスクラスに乗ったのよね〜、あの時の彼氏はもうとっくにいないよ〜」

 そう聞いた時の私の気持ちを分かっていただけるだろうか。恥ずかしさ、とはこういうことだと思った。自己嫌悪とは、こういう感情だと思った。年上の男性といただけで、私は「男がパトロン」とどこかで決めつけていたのだ。そういうミソジニー(女性嫌悪)な視線が私自身にもあるのだと、自己嫌悪とスガワラさんへの申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 だいたいリッチなパトロンがいたからといって軽蔑するような視線自体、おこがましい。心から、ごめんね、ごめん、スガワラさん!と私は手を合わせた、心の中で。

 女友だちと経済は複雑だ。既婚女子と非婚女子を隔てるものがあるとすれば、それは結婚に対する価値観の違いとか、将来の不安に対する違いとか、社会的地位の違いとか、子どもの有無とかそういうことではなく、お金の問題が一番大きいのではないだろうか。結婚に興味はないし、したくもない、と思いながらも、おひとりさまには、スガワラさんが男と一緒にビジネスクラスに並んでいるのを見た時に私が感じた嫉妬と動揺と軽蔑が、どこかに潜んでいるのではないだろうか。

 そしてその軽蔑や嫉妬は、既婚非婚問わず仕事をする女が持ちやすい専業主婦へのうっすらとした軽蔑や嫉妬にもつながっている。

 先日、女友だち数人と食事をしたときのこと。半分は結婚していて、半分はおひとりさまで、みんなマスコミ関係。深夜まで六本木のバーで飲んでる時に、その中の一人(既婚者)が「この間、同窓会に行ったんだけど」という話から、「専業主婦の友だちと話が合わない」というようなことを言い出した。「やっぱ働いてない女って、どこか、甘いんすよ」と。

 それを聞きながら、やはり寒々しい気持ちになるのだった。いつまで私たちは、コレを繰り返せばよいのだろう。既婚者と非婚者の分断、そして既婚者の中でも専業主婦か非専業主婦かの分断。そういう分断こそがミソジニーそのもの、女と女を分断する男社会そのものの弊害なのに。専業主婦を叩く手を振り下ろした先には、きっと自分と同じような顔をした女がいるだけなのに。

 それでも、そんなことを百も分かってはいたとしても、リッチな男と結婚し専業主婦になった友だちが、夏休みには子ども連れでビジネスクラスでパリのフォーシーズンズの10泊とか聞くと、「全部で、いくらだろう」と計算してしまう自分がいる。会社を辞めてフリーになる、という既婚者の女友だちが「夫がいなかったら、やっぱりフリーになる勇気はない」というようなことを言うと、ああ結婚とは、職業選択と経済の自由を得られるものなのか、と気づかされたりもする。

 女の友情と経済は難しい。女の場合、ビジネスクラスへの道は、単純な一本線ではないのだから。自分のお金で乗るか、男に買ってもらうか、どっちの生き方を選ぶか、どっちも選ばないかなどなど、複雑に絡み合い、だからこそ嫉妬したり、動揺したり、軽蔑したりと、私たちは揺れる。同じような選択をした女友だちどうしだと、ついつい気が緩み、違う選択をした女たちへ厳しい視線を向けてしまったりもする。

 女たちが女の〝選択〞への厳しい視線を、評論家きどりで語るとき、そんな時に感じる自己嫌悪は、常に女性嫌悪とつながっている分だけ、後味がとてもとても悪い。だけど、いったいどんな答えがあるというのだろう?フェミ的な正解としては、男の有無で女の働き方が変わるような制度を変えるべき!政治家働け!市民よ闘え!社会よ変革せよ!って感じだろう。

私たちの格差はどんぐりの背比べ

 一方で、男の有無で働き方が変わる制度や社会を生きる今の女としては、自分の動揺や苛立ちを見つめつつ、そのたびに、私は結婚したくないのだから、男と暮らしたくないのだから、私は私あなたはあなた、と考えるしかないのである。それだけが結論で、それだけがスガワラさんとの失敗を繰り返さない私の答えだ。ミソジニーのスパイラルに巻き込まれ、自己嫌悪と嫉妬と軽蔑に飲み込まれたくないから。

 ところで私にはスーパーリッチな、ヤマミツさんという年上の女友だちがいる。誰もが知っている国際的会社の娘である。貴族みたいなもんである。私の知る女友だちで、というより人間で、一番のお金持ちだと思う。

 ヤマミツさんと海外旅行に行った友だちから、こんな話を聞いたことがある。恐らくファーストクラスにしか乗ったことのないヤマミツさんは、友だちの経済状況に合わせ、生まれて初めてエコノミークラスに足を踏み入れたのだった。そしてヤマミツさんは、エコノミークラス・スペースに入ったとたん、感嘆したようにこう叫んだそうだ。

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メロスのようには走らない。〜女の友情論〜

北原みのり

独身、既婚、子持ち、子なし、お金持ち、貧乏、美人、不美人…。ちょっとの「違い」ゆえに、時々ぶつかる私たち。それでも、男には絶対に見出せないものが、女の友情にはある。「女友だち」の新しいカタチを描く、北原みのりさんのエッセイです。

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コメント

34colorchoice79 わかる、としか言いようがない。 自分の偏見とプライドに落ち込むし苦しむのよ 1年以上前 replyretweetfavorite

sabochin 毎週「???」ってなるお時間だよ~ 今回はまだ…まだそうでもないかな… 1年以上前 replyretweetfavorite