ソロアイドルからグループアイドル時代へ
キャンディーズとピンク・レディーという二大スターを生んだものの、アイドル創世記の1970年代から黄金期と呼ばれた80年代まで、アイドルとは主にひとりで活動するソロ歌手が主流でした。90年代の「冬の時代」を経て、ミレニアムを迎える直前に生まれたモーニング娘。も、きっかけは「ASAYAN」内において開催された「シャ乱Q(プロデュースの)女性ロックボーカリストオーディション」最終選考の落選組5人で結成。つまり元々は当時一世を風靡していた相川七瀬のようなソロシンガー、ないしはリンドバーグの渡瀬マキのようなバンドを引っ張っていけるひとりのボーカリストを探していたのです。
ところがふたを開けてみると、負け組だったはずのモーニング娘。の方が大ブレイク……という、グランプリの平家みちよからすればなんともやるせない結果になりましたが、では一体なぜ“モー娘。”は国民的アイドルへと成長したのでしょう。その理由のひとつに「グループアイドルだったから」ということが大きく作用していると思います。
新人が芸能界でデビューする際に、世間がその人はどういったキャラクターなのかを知る術はなかなかありません。ひと目見てわかるビジュアルのほかに歌手なら歌の技量、シンガーソングライターなら作詞作曲の能力、役者なら演技力、と技術が判断材料となるのに対し、アイドルは存在そのものが認知され愛されてはじめてファン獲得へと繋がります。もちろん楽曲やビジュアルが入り口にはなりますが、「推し」とはそれ以上に感情移入できる存在のことなのです。
そんな時にグループであることは感情移入するための第一歩になります。このメンバーの中では「どんなポジションで」「何に秀でていて」「何を苦手とするのか」。個の特性を知ろうとするよりも、比較対象がいる群の中の個を判別する方がずっと楽で易しいからです。1980年代後半から音楽番組が激減しアイドル冬の時代と呼ばれてから久しいこの時期に、パーソナリティまで理解してもらい『ASAYAN』からブレイクするには、グループを組むことと「負け組からのスタート」というストーリー性は、うってつけの処方薬だったのかもしれません。
実際モーニング娘。の知名度がどんどん上がってきた頃に私は中高生でしたが、クラスでは男子の「モー娘。の中なら誰がタイプ?」という会話が終始飛び交っていました。ソロだと「好き」か「興味ない」の二択でもグループだと不思議なことに、ひとまずは誰かひとりを選ぶルールに変わるものです。
メンバーの個性を引き立たせたバラエティ番組と工夫
この、グループアイドルならではの特性が遺憾なく発揮され、モーニング娘。のメンバーひとりひとりのキャラクターを世に知らしめることができたのは、当時増え始めていたバラエティ系の音楽番組、特に1996年~2010年までTBS系列で放送されていた「うたばん」の力が大きかったと思います。MCの石橋貴明による過剰な“えこひいき芸”で寵愛を受けるメンバーもないがしろにされるメンバーも、結果的には全員が目立って得をするという図式が確立されました。