オフィスハック

YouTuberの生配信はマジで効く

「これぞ日本版キングスマン」「スカッとする!」「早く映像化して」Twitterで話題のスパイアクション小説『オフィスハック』より第2話「ミニマル製菓の社内調整」をリバイバル連載。(あらすじ)「うちの不祥事を世間様が知る前に社内調整せよ」東京丸の内の大企業T社。人事部直轄の特殊部署「四七ソ」に今日も新たな指令が下る。年の差バディ香田&奥野がスーツに身を包み、オフィスでクソ野郎共を撃ち殺す!

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『今日これから話す話……それはですね、最近動きがおかしくて、今日炎上しちゃった、ミニマル製菓のTwitterアカウントのことなんです。あれは実は、悪い人に乗っ取られていました。それで今、悪い人が、最後の悪あがきで、アカウントを削除したんです。だから、復元されるまで、しばらく、公式のアナウンスってのができません。そういうニュースが、僕のところに入ってきたんです。ミニマル製菓さん、凄い困ってます。もちろんアカウントを取られたのは悪いこと。でもこの行き過ぎた炎上、すぐに止めないと、大勢の人が悲しんじゃうことになる。その家族も』

 モギモギはわかりやすく真摯に語り続けた。

「頑張ってくれ……!」

 おれはスマホを割りそうなほど強く握りしめていた。

『だから、モギモギは今日突然、予定にない生配信を始めました。お昼休みの間にせめて、炎上が少しでも沈静化したらいいなって思ったんですね。そして、何でこういうことを僕が全部知ってるかっていうと……』

 モギモギはしばらく言い淀み、決心したように、再び語り始めた。

『あのアカウントは実は、もともと僕が始めたんです。今まで特にプロフィールとかは出してこなかったですけど、僕むかし、ミニマル製菓の社員だったんですね。だから今もお菓子ネタ多いんですけど』

 おれはタイムラインを確認した。

 凄い事が起こっていた。

「すごい、すごい拡散してますよこれ。モギモギが配信中に打ったツイートも、更新押すたびに1000くらいずつリツイートが増えて……」

 おれは興奮のあまり、スマホを持つ手が震えてきた。

「つまり、大勢の人に、伝わってるって事ですか?」

「そうです、伝わってます、伝わってます」

 おれは再び生配信に見入る。

『あ、質問きてますね。モギモギ本当かよって。確かに思いますよねー。僕いつも適当な事ばかり言ってますし。でもこれ、ちゃんと証拠があるんですね。えーと、清水さん、ちょっとこっち来てもらっていいですか? ジャーン、この方が、僕の元上司の清水さんです。清水さん、すみません。僕が急に会社やめた時は、本当にご迷惑をおかけしました。しかもYouTuberになっちゃって……はは……すみません』

「え、清水さん?」

『あ、どうも、ミニマル製菓の清水です。これ、社員証です。この度は皆様にご迷惑をおかけして……』

「あー、清水さんだ……滑舌悪いけど、すっげえ頑張ってる……。あの後、モギモギのとこまで説得に行ってたんだな……多分この行動も、かなり、無茶してるよ……」

 おれはなんだか涙目になってきた。

 配信はその後もずっと続き、今回の経緯だけでなく、モギモギの広報アカウントに対する想いまで語られ始めた。おれは夢中になって聞いていた。YouTuberとか一緒くたにバカにしてたけど、凄いんだな。

 その時、インカム越しにアラームが鳴った。おれは現実に引き戻された。

「おっと」

 制限時間が来たのだ。やれるだけの事はやった。これで無理だったら、もうどうしようもない。これで無理だったら、おれのヘマのせいだ。おれは半ば自暴自棄になって、ため息をついた。

 鉄輪からの報告を待つ。現場には井上とアスカンがいる。鉄輪はそっちの動きも把握してるはずだ。

 だが、おれに声をかけたのは鉄輪ではなく、奥野さんだった。

「香田さん、やりましたね……!」

 いつになく強い口調で、おれの肩を叩いてきた。奥野さんのボディタッチは珍しい。

「どうしました?」

「あれを、見てくださいよ。株価、後場でプラス圏に一気に浮上したんです!」

 指し示す先は、PCの画面に映し出されたミニマル製菓の株価だった。

 さっきまで炎上で真っ赤だったのが、緑になっていた。奇跡的に、12:30の時点でミニマル製菓の株価はプラス圏まで浮上していたのだ。

「エッ、マジで? こんな事あるの?」

「ありますよ! 乗っ取り犯の調整と、生配信が効いたんですよ!」

『やったよ! 凄いよ!』

 固唾をのんで見守っていた鉄輪も、それに気づいたようだ。こんな嬉しそうな鉄輪の声を聞くのは久々だ。

「あー、やった、ビックリした、本当」

 おれも少し事態が信じられず、片手で頭を抱えたまま笑った。

「嬉しいなあ、こんな嬉しい調整、めちゃくちゃ久しぶりだ」

 緊張が解けて、思わずヨガボールの上に座り込んだ。

 モギモギの配信はまだ続いていた。

「これで第二人事部の包囲も解かれますね」

 と奥野さん。

「そうですね。なあ鉄輪、おれたちはどうしたらいい? もうちょっとここでゆっくりして、配信でも聞いてたらいいのか? それとも……」

『ちょっと、井上、何起こったの!? 銃声!?』

 突然、鉄輪のパニクった声が混線してきた。

「どうした!?」

 しばしの沈黙。

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2018-04-19

この連載について

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ダイハードテイルズ

これぞ日本版キングスマン/会社あるあるが笑える/スカッとする!/早く映像化して! などTwitterで話題のスパイアクション小説『オフィスハック』(著:本兌有・杉ライカ、画:オノ・ナツメ)をリバイバル連載!(あらすじ)「ウチの不祥事が...もっと読む

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