はじめに
ぼくはガン患者だ、残念ながら治る見込みはないけど、あと数年であろう人生を楽しんでいます。
余生を謳歌しているので“奇跡はおきるから。ありのままでいいから。明けない夜はないから”みたいなJ-POP系の励ましはしなくても大丈夫です。J-POPを奏でて他人の心配や悲しんでいる場合でも、不幸だと思い込んで喜んでいる場合でもありません。これを読んでいるあなたもいつか死にます、自分の心配をしましょう。
ガンであることを公表してから、多くの人から励ましや応援のメッセージ、宗教や健康食品や高額な治療法の勧誘メッセージなどたくさんいただいた。ここまでは想定内……というよりも覚悟の上だった。
まったくの想定外だったのは、人生相談のメッセージがたくさん届いたことだ。ぼくはお坊さんではない、ただの写真家だ。写真家っていうとなんだか聞こえがいいけど、言ってみれば八百屋さんや魚屋さんと同じ。ただ写真のことを専門的にやっているだけ。写真で稼いだ一万円札もコンビニで稼いだ一万円札もおなじ柄だ。写真家だからって偉いわけでもなんでもありません。
「家族がガンになってどう接していいかわからない。」という病気に関する悩みをぼくに相談するのは、まだ理解できる。しかし恋愛相談などになってくると、はっきり言って理解ができない。恋愛しまくってる恋愛戦士のようなお坊さんに相談した方がいいのではないだろうか。
それでも、ある理由から、悩みの内容に関わらず答えることにした。いままでにツイッターで500件近くの相談に答えてきた。答えられていない相談が数千件もある。全てに目を通してはいるが、全てに答えていたら、きっとさらに寿命が縮んでしまう。というのは冗談だけど、ツイッターには文字数の制限があり、言いたいことを全て言えないもどかしさがあった。それをこの連載で解消したい。
「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう?」という連載タイトルだけど、さいきん少しだけぼくに質問をしてくる理由がわかってきた。相談を受けるとここぞとばかりに、相談者のことを否定して自分の考えを押し付ける人がいる。場合によってはそのまま説教や批判されることや、昔はさぁ~とまったく役に立たない過去の話をしだす人がいる。
ちなみにここでいう昔って、縄文時代のころの話でも江戸時代のころの話でもなく、その人の若いころの話です。彼らはただ自分の話をしたいだけなんです。ぼく自身も過去に先輩などに相談して、これをやられて嫌になった記憶がある。そういう人には二度と人生相談をしていない。こういう人が少なくないのだ。だから周囲に相談できる人が見つからず、ガン患者に人生相談をしてしまう。
いまの彼氏や彼女と結婚するかどうか迷っている人は、人生相談を彼氏彼女にしてみるといいです。考えを押し付けてくるような人だったり、自分のことを否定してくる人だったら、結婚は控えた方がいいとぼくは思います。子どもができたとき、子どもという絶対的に弱い存在に対しても同じことをするからです。考えを押し付けてくる人って、やっぱり誰かから考えを押し付けられてきたのだと思います。
じつは人生相談というは回答者の人間性や性格を表すものなんです。答えることのハードルを自分であげてしまったけど、さいきん気づいたことです。だからぼくは、相談は全て自分の息子からされたと想像するようになりました。だから内容に関わらず答えている。
この連載でも、ぼくはあなたの相談に対して、息子から聞かれたと想像して答えます。息子からの相談であれば、こちらも真剣に答えてあげなければと考えるようになるから。
お知らせ
幡野広志写真展「優しい写真」
場所:ソニーイメージングギャラリー 〒104-0061 東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6階
開催日時:11月2日(金)〜15日(木)
開館時間:11:00〜19:00
*11月10日(土)と11日(日)はトークショーのため
予約のお客様以外はご入場いただけない時間帯がございます。
https://www.sony.co.jp/united/imaging/gallery/