バリ島はインドネシアにある、東京都の2・5倍くらいの小さな島だ。
僕がこの島を住む場所に選んだ理由は、ただの思いつき。でも、決断して本当に良かったと思っている。
「神々の島」と呼ばれていて、お寺や宗教遺跡も多く、島全体がパワーで満ちている感じだ。
朝になると、どの家も、自分の家の神様に小さなお花のお供えをして、感謝の祈りを捧げる。神秘的というよりも、どこか懐かしいアジアの光景だ。
バリ島に移住して、もう10年経った。
思いつきで移住したのに10年も住み続けるなんて、自分でも不思議に思っている。
よっぽど僕は、バリ島と相性が良かったんだろう。
バリ島では、東京の生活とは比べものにならないくらい、ゆったりとした時間が流れている。ここに来てから、僕は時計もあまり見ないし、すっかり島のライフスタイルに慣れてしまった。
あるとき、バリ島の人と待ち合わせした。だけど時間が過ぎても、全然現れない。
待ちくたびれて電話してみると、
「今、クタの街に着いた」
「それ、3時間前に約束してただろ!」
こんな感じだ。
だけど、そんな国民性でも不思議といざこざは起こらない。
その理由を、仲良しのユウちゃんが教えてくれた。
「バリ島の人たちは、滅多なことでは怒らないんだよね」
たしかにバリ島には、穏やかな人たちが多い気がする。
1年を通じて快適な気候の中で暮らしているからというのもあるし、バリ島の人たちが信仰しているヒンドゥー教の教えの影響もあるらしい。
ユウちゃんは、バリ島に集まってくる世界中のサーファーのために、宿泊施設を用意したり、波の情報を提供したりするコテージのオーナーだ。
バリ島で出会った、僕の親友でもある。
ユウちゃんは、僕に特別な気を使わない。僕が何気なく言った不満などにも、反対なら反対で「いや、ここはこうだと思います」とはっきり言ってくれる。
裏表がないから、付き合いやすい。
移住したころの話だ。
金銭トラブルの裁判の決着もついていなくて、僕にはまだ貯金もあった。
当時の僕を、ユウちゃんはこう思っていたらしい。
「イヤなヤツ」
僕は、ちょっと横暴な感じだったという。
「ほら、お金ならここにあるから!」
ことあるごとに、そんな言い方をしたらしい。
ユウちゃんは言う。
「お金がなくなった、今のほうがいいよ」
お金のトラブルでさんざん苦しんできて、こんなこと言うとバカだと思われるかもしれないけど、ユウちゃんになら騙されてもいいと思ってる。
僕は、バリ島の人たちの明るさに助けられた。お金を失ったことによって、かえって人間的に成長できたのかもしれない。
この島の人たちは僕のことをちやほやすることもないし、必要以上のおせっかいを焼くこともないし、本当に、素のままで接してくれる。