─― 新庄さんは、以前テレビ番組で「野球なんてマジバイト」と発言したことが話題となりました。本当にバイト気分で野球やってたんですか?
新庄 あの発言、「新庄らしくて面白い」って言ってくれた人も多かったけど、真面目に怒った先輩もいたから、この際、ちゃんと本心を伝えたい。
まず、遊び半分でプレーしたことなんか一度もない。オレ、野球に関してはマジで努力もしていたから。
── 努力している姿を誰にも見せなかった、と本の中で明らかにしていますね。
新庄 普通の選手は、監督が見ているときだけ一生懸命練習をするんだけど、オレの場合は逆。監督が来るのが見えたら、むしろ練習をやめてた。“努力したアピール”なんてダサいし。
── 他の選手と一緒に室内練習場をいったん出て、また戻って練習していたというのも、すごいエピソードです。
新庄 たった一人でベンチプレスを上げるわけだから「もしこれが首に落ちてきたら死ぬかも」とか、怖くて怖くて。でも、恐怖心よりも「スターになりたい」という気持ちが強かったからね。
今になって、「新庄ってやっぱり努力していたんだ」って知られるの、格好よくないですか?
── 格好いいです。
「野球なんてマジバイト」 と思わないとやってられなかった
── じゃあ「野球なんてマジバイト」というのも照れ隠しだったんですか?
新庄 それもあるけど、野球で入ってくるお金なんて、CMとかテレビ出演で入ってくるお金に比べたら本当にバイトみたいなもの。
だって、メジャー1年目の年俸が2200万円なのに、CMに1本出ただけで8000万円とかもらっていたんだから。CM1本を撮るのに6時間。たった6時間で8000万だからね。
── メジャーリーグが年162試合? 全試合に出場しないにしても、時給換算すると全然違う。
新庄 当時、オレは知らされてなかったんだけど、CM撮影は6時間以内、それをオーバーしたら倍額を請求するという話になっていたみたい。で、一度だけ撮影が2分オーバーしたことがあって……。
── その話、最後まで聞くのが超怖いです。2分くらいダメなんですか?
新庄 だって、当時は本当に何も知らずに、言われる通りやっていただけなんだから。
あるとき、テレビのバラエティ番組のゲストに呼ばれて、楽屋でメイクしていたら、マネージャーが「剛志、笑顔。笑顔でお願い」って言ってカメラを向けてきた。
オレ、写真を撮られるのがあんまり好きじゃないから、ちょっと不機嫌になりながら「なにこれ?」って聞いたら、マネージャーが一言。「剛志、これ8000万円の3年契約だから」
── なんなんですか、その仕事!
新庄 なんかのコマーシャルだったみたい。そんな話、いくらでもある。バラエティ番組のギャラが800万。テレビでオレの画像をワイプで使うだけで300万。海外のテレビロケが2000万で、衣装代が500万。
── 野球なんてマジバイト! あ、これ自然に出ちゃう発言です。
新庄 野球選手って、用具メーカーと契約してスポンサー料をもらうことがあるんだけど、日ハム時代、チームメイトから「ツーさん、いくらもらっているんですか?」と聞かれて答えられなかった。オレ一人だけ、ケタが違ってたから。
だってリストバンドをつけるだけで年間4000万とか。タイガース時代、バットが折れたら1本7000円くらいで買っていて、「キツいなー」とか思っていたのに。本当に「わいたこら!」だよ。
── 本業の野球選手として活躍しているから、そうやって新庄さん自身に商品価値がつくわけですよね?
新庄 もちろん、自分でもそういう理屈はわかってた。でも、メジャーで通用するかもわからない孤独とか恐怖に耐えて、命がけでプレーして2200万円なのに、写真を1カット撮っただけで8000万円入ってくるって言われたら、「野球なんてマジバイト」って思わないとやってられない。そんな生活が8年くらい続いたわけだからさ。
すれ違いざまに高級車を指さして 「これ買っておいて」
── そうやって精神状態を保っていたわけですね。でも、それだけお金が入ってきたら、使うほうも派手だったでしょう。
新庄 子どものころ、プロ野球選手が高級外車に乗っているのにあこがれて、ほとんどクルマにつぎこんでた。
マネージャーとクルマに乗っていて、すれ違ったクルマを見て「あれ、明日買っておいて」とか。ベントレーとかフェラーリとか。数千万する外車を買いまくってました。
── そんな買い物の仕方、マンガでも見たことないです。
新庄 クルマといえば、メジャー1年目の年俸が2200万円で、タイガース最終年の年俸が8000万。税金4000万円くらいになるんだけど、当時はクルマばかり買ってたから払えないんだよ。
── どうしたんですか?
新庄 持っているフェラーリを売ろう、と。オークションをしたら3億くらいで買いたいという人が出てきて……。でも、やっぱり売るのやめました。「自分のファンから3億ももらうのは悪いな」という気がして。税金は、お金を借りてなんとかしました。
── そこで「悪いな」と思ってしまうのが、新庄さんらしいです。
新庄 高級家具店で買い物しまくったこともあったな。あの親娘でもめてる家具屋さん。
── もめてるとか、そういうのはいちいち言わなくていいんです!
新庄 30分くらいで店内を歩いて回って、「あれとあれ、あれも買おう」とかって指さしていく。いちいち値札なんてみない。結局4000万円くらい買って、マンションに全部入りきらなかった。
── 何やってるんですか! 昔、荒井注さんがカラオケボックスを開店しようとして、機材が店に入らなかったエピソードを思い出しました。
新庄 え? 何それ?
── すみません。古いたとえで失礼しました。
新庄 103インチのテレビを700万円で買ったんだけど、3か月後に105インチの新製品が出て、買い換えたこともありましたね。
── 2インチって。もはやサイゼリヤの間違い探しのレベルですね。
新庄 え? 何それ?
── ……すみません。何でもないです。
何でも買えるって、 全然幸せじゃない
── で、そんな生活を送っていてハッピーだったんですか?
新庄 やっぱり、そんなのを繰り返していると、だんだんつまらなくなってくる。スーパーカーのアクセルを踏み込むと、一瞬で加速するんだけど、その一瞬だけはテンションが上がる。だけど、すぐにむなしくなっちゃう。「で、だからどうした?」って。
── お金持ちならではの孤独ですね。
新庄 オレ、実家が貧乏で、晩ご飯ゆで卵1個とかだったから、人一倍「稼ぎたい」という気持ちが強かったわけ。
タイガースでFA権を手にしたとき、提示された金額が5年で12億。他球団からも12億のオファーがあったけど、メジャーを選んだのは、「メジャーで成功したら12億どころじゃない」と思ったから。
── ハングリー精神がモチベーションだった。
新庄 でも、実際に成功したらバカみたいな買い物をするだけ。「これが成功することなの? 子どもに夢を見せるって、こういうことなの?」そう考えると、なんか違うなーって。
── 貧しかった少年時代を経て、大金を手にするようになって、20億円だまし取られてしまうわけですけど、今お金についてどんなふうに考えていますか?
新庄 冗談抜きでお金がありすぎるのは面白くないよ。じゃあ、子ども時代の貧乏が良かったとか、そう言うつもりはないし、あの時代には二度と戻りたくないけど、何でもお金で手に入ってしまうって、幸せじゃない。
貧乏と金持ちの両方経験したオレが言うんだから間違いない。だから、お金に関しては日本のみんな超幸せな人生を送っているんじゃないですか。
── うーん。素直に喜んでいいのかよくわからないですけど、身の丈にあった暮らしというのがあるのかもしれないですね。
●最終回、お金の天国と地獄を体験した“スター”新庄剛志が語る「わいたこら!」なお金の話は、9/25公開予定。