繰り返される「直子の死」
構造に配慮しつつ主題に迫っていこう。作品の入れ子構造からして、主題は冒頭二章に提示されている。その視点で冒頭二章を見つめていくと、パズルというほどではないが、隠蔽されたかに見える主題はその細部に浮かび上がる。それはまたしても、「直子の死」である。直子の自殺は、曖昧ではあるがまず第一章で言及されている。1969年の冬から70年の夏の時期としてこう語られる。
彼らの多くは大学をやめていた。一人は自殺し、一人は行方をくらませていた。そんな話だ。
明示的ではないが、自殺は「直子」であり、失踪は「鼠」である。『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』にも対応している。
またこの作品は、直子の自死が前二作のように、キーワードや日付を使って解くパズルとしては仕組まれてはいないが、それでも日付を追って見ていくと、直子の自死を覆うパズル的な様相は見て取れる。第一章の「誰とでも寝る女の子」は、1970年の夏に主人公との性関係を含めた関係を始めるが、前二作でいうなら、『風の歌を聴け』の表層の物語が終わり、『1973年のピンボール』(講談社文庫)でピンボールに没入する時期である。主人公は、『風の歌を聴け』(講談社文庫)で鼠の恋人に魅力を感じたように、またピンボールマシンに夢中になったように、「直子の死」の力によって、この時期に「誰とでも寝る女の子」との関係が引き寄せられる。ゆえに、直子が死んだと想定される年の晩秋、1970年の11月25日に「誰とでも寝る女の子」は主人公とこう語り合う。